高みへ突き抜けて|第16回 ヴィクトリアマイル回顧
至近の牝馬重賞の勝ち馬が一堂に会し、牡馬に交じって短距離戦線で結果を残したレシステンシアやダノンファンタジー、テルツェットらも顔を揃え、勢いのある充実のメンバー構成となった今年のヴィクトリアマイル。
だが、終わってみれば大横綱グランアレグリアの独壇場だった。
単勝1.3倍が示す通りの一強評価だったが、向こう正面で早々に馬群の外目の進路を確保する超安全運転にも拘わらず、直線半ばで持ったままで前を飲み込むのだから、他の馬はノーチャンスだった。
やや雨を含んだ府中の馬場だったが、直線も一杯になったようには見えず、クビ差の大激戦となった二着争いを尻目に、上がり3F32.6を鼻歌交じりに叩き出して悠々と走り抜けた。
アーモンドアイは生涯で四度苦杯を舐めているが、彼女が力を出し切って尚敗れたのはグランアレグリアのみである。
それ故に、ここでも二つも三つも突き抜けた実力を有することは理解していたつもりだが、想像の更に上を行く規格外のパフォーマンスだった。
かつては心身ともに揉まれ弱く才能だけで走っていた。母父Tapit由来の気の強さが裏目に出て、朝日杯FSやNHKマイルCでは精神的に追い詰められた苦しい走り見せることもあった。
彼女がこれだけの高みに至ったのは名伯楽・藤沢調教師とNF天栄の手腕の賜物だろう。3歳夏、蹄のトラブルに見舞われてる中で、嫌な記憶を植え付けぬよう細心の注意を払い、焦らずに馬本位の調整を続けた。復帰戦となった阪神カップ以降の彼女の走りは走ることへの前向きさと清々しさに溢れている。
戦績上も既に稀代の名馬だが、今後数十年に亘り、最強馬論争の一角として語り継がねばならぬ存在である。
秋には三階級制覇への再挑戦も示唆されているが、良馬場のワンターンであれば三冠馬を向こうに回しても成し遂げるかもしれない。残り一年を切った彼女の現役生活は目に焼き付けなければならない。
戦前は厳しい逃げ争いが予想されていたが、クリスティがハナを奪ってスマイルカナとイベリスが番手に控えたことで、レース全体はややゆったりした流れとなった。
往々にしてマイルG1はペースが緩むと追走で脚を削がれない中距離タイプが台頭するが、ランブリングアレー、マジックキャッスル、ディアンドルらが上位を占めたのは、まさに今回の競馬の性質を表しているだろう。
彼女らはいずれも今年になって中距離の重賞タイトルを奪取した勢いのある馬たちで、標準的な牝馬G1戦線であれば十分に戦っている実力者である。
秋のエリザベス女王杯は、グランアレグリアもデアリングタクトもレイパパレもおそらく出てこないであろう。秋には大きなチャンスが待っている。
最後の最後で馬群に呑まれた6着のレシステンシアにとっては、大外枠が仇となり最後まで難しい競馬になってしまった。
ハナを奪いに行けばスマイルカナやイベリスの大きな抵抗に遭って激流に巻き込まれていただろうし、今日以上に早めに踏み込んで一頭抜け出しても気力は最後まで続かない。
レシステンシアほどの高い能力を持った馬でも、枠順や展開に恵まれなければ結果を出せないのがG1戦線の厳しさだが、パドックはいつも素晴らしく、着実に成長していることは間違いない。
グランアレグリアという偉大な壁を超えることは並大抵ではないが、この路線を彩るチャレンジャーとして、今後も大注目の存在である。
連勝で臨んだテルツェットは終始こじんまりとした走りでらしさをみせることができなかった。初めての一戦級との手合わせで飲まれてしまっただろうか。一線級たちとの手合わせがさらなる成長を促すのか、はたまた心が折れてしまうのか。
ほぼノンストップで重賞を制した才能には疑いようがないが、ここを乗り越えられるかが正念場。彼女の動向にも注目したい。
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