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カジノドライヴの痕跡|第33回かしわ記念回顧

GWの最終日、南関東のカジノフォンテンが中央の強豪を退けてG1級競走二勝目を挙げた。
地方所属馬によるG1級競走2勝以上はアジュディミツオーやフリオーソといった、歴代の名馬たちに肩を並べる大記録となった。

カジノフォンテンの血統表や戦績を紐解くと、二つの事実にたまらない気持ちになる。

一つ目は父カジノドライヴの存在。
私はカジノドライヴのデビュー戦を幸運にも京都競馬場のスタンドで観戦することができたのだが、眩しい朝の光の中、しなやかに体を躍動して、初めての競馬場を存分に楽しむかのように悠々と駆け抜けていった姿は今でも鮮明に脳裏に浮かぶ。
天賦の才を与えられた者の、高らかで清々しい心の声が聞こえてきそうな快走だった。

カジノドライヴはジャジル(Jazil)とラグズトゥリッチズ (Rags to Riches)という二頭のベルモントステークス勝ち馬の弟として大きな期待を背負って輸入され、1勝馬の身分ながら米国へ度々遠征する等、型破りなキャリアを歩んだ。
度重なる故障に見舞われて重賞タイトルは米国のピーターパンステークス(G2)のみだが、G1級の能力があったことは誰しも認めるところだろう。
残念ながら一昨年に若くして他界してしまったが、米国からのれんを分けて日本で競走生活を送った名血が、日本に根を張って次代にバトンを繋ぎ父系を伸ばそうとしている意義は非常に大きい。
地方の馬場で鍛えられたカジノフォンテンの走法はカジノドライヴとは少し異なる印象も受けるが、画面から伝わるパワフルな体躯には父の面影も確かに残っている。(異なる部分はノーザンテースト=アンバーシャダイの頑健さを感じているのかもしれない。)
世界の競馬界からこの血を絶やさぬためにも、どうかこの血が日本で独自の進化を遂げていく未来を願いたい。


二つ目は騎手と馬、二つの親子の絆。
カジノフォンテンにまつわる縁に思いを馳せると、彼の活躍には二重三重の人々の想いが込められていることに気付く。

母ジーナフォンテンは今は亡き上山競馬でデビューして2000年代前半に南関東を席巻し、張田京騎手(現・調教師)を背に二つのダートグレード競走を制した。
カジノフォンテンの主戦である張田昂騎手にとっては、父親が騎手として果たせなかった地元馬とのG1タイトルを、父親とかつてパートナーを組んだ名牝の仔と達成できた恰好である。

カジノフォンテンは川崎記念でもかしわ記念でも、人馬一体となって実に気分良く、鼻歌交じりに船橋の直線を駆け抜けていった。
大一番の勝利を掴むのは一歩踏み込む勇気であるが、彼らの呼吸からは勇気を振り絞らずとも踏み込んでいけそうなほどの絆の強さと自信を感じた。
それは、慣れない馬群で藻掻くカフェファラオや地方の深い砂に気勢を削がれたタイムフライヤーらの苦しそうな走りとは実に対象的であった。

彼の次の標的はチュウワウィザードかオメガパフュームか。地方競馬の総大将として臨む今シーズンの戦いはますます熱いものとなりそうだ。



インティはゲートで頭をぶつけて後手を踏む不運に見舞われながらも、控えるスタイルであと一歩の結果を出して見せた。
連勝街道で頂点を極めて以降は、彼のフィジカル能力からは歯がゆい成績が続いているが、大敗しても次走で一変できるのは、インティ自身の走りたい気持ちが、どれだけ砂にまみれても萎えていない証拠でもある。
野中調教師と武豊騎手の試行錯誤が再び結実する日が来るのか、彼のような厄介で魅力的な馬は応援しがいも一入である。


カフェファラオは戦前から懸念されていた経験不足を露呈した。
勢いよくダートを駆けあがった馬は、受けて立つ立場になったときに往々にして、才能だけでは乗り越えられない大きな壁にぶつかる。
目の前で大先輩のインティが、もがきながらその壁を突破しようとしている姿は、彼にとっては手本であり励みにもなるだろう。
ダート界ではまだまだ若造だが、猛者たちに囲まれてこのまま埋もれてしまうのか、ワンランク上の馬に成長を遂げて再浮上するのか、ここが正念場である。
若くして頂点に立った走りを見る限り、乗り越えるだけの力量は十分に秘めているはず。私は後者となって、砂上での熱い戦いを盛り上げてくれることを期待したい。


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