君はNAMIKIを知っているか【嵯峨野ぐらし51】
相変わらず外国人観光客でごった返している京都。平日の昼間に嵐電に乗ったら、朝ラッシュでも遭遇したことがぐらいの大混雑で、しかも乗客の8割は外国人、残り2割の日本人らしき人もその半分以上は観光客と思われ、私のような沿線住民は完全にアウェイです。(コロナ全盛の頃、嵐電があれだけガラガラだったし、お年寄りは敬老パスを使って市バスを利用するし、まあそういうことなんでしょう)
なので、私のようにネクタイを締めて車内でウキまくっている人は、たとえTOEIC565点でも「良識のある地元民」に見えるらしく、よく英語で道を尋ねられます。
さらに、バイト先(書道用品店)のお客も半分ぐらいは通りすがりの外国人なので、私はいつの間にか勢いだけでけっこう英語が喋れるようになってます。でも勢いだけなので、TOEICの点数は以前より間違いなく下がっているはずです。
さて、街を闊歩する欧米人は、冬でもTシャツに半ズボンで歩いているぐらいなので、今の時季は乳や尻を半分露出しているような人も多いわけで、毎日のようにおもしろいタトゥーを目にします。
ひと目でアニヲタとわかるようなコスチュームでアニメの登場人物のタトゥーを入れてたり、ペットの犬らしきかわいい動物のタトゥーは、まあわかりやすいほうで、何を描いてあるのか謎のような絵もよく見かけます。
しかし、今日電車で見た人のタトゥーは史上最強でした。ベンゼン環が3つぐらい連なるところに水酸基やアミノ基やらがひっついた複雑なそれでいて美しい配列の化学構造式のタトゥーです。何の構造式かわかりませんがアブないクスリかもしれません。(私が知る限りのアブないクスリの化学構造を調べてましたが、こんな美しい構造ではなかったです)
それより、私はベンゼン環は欧米でも日本と同じように、こんな亀の甲羅みたいに書くんだ、化学式は万国共通の言語なんだということに感動を覚えました。
それはさておき、バイト先の書道用品店で店番をしていると、スペイン語を話す若い男女がやって来て・・・・・・
「ナミキペンはあるか?(英語)」と聞くので、思わず「何やて? ナミキパン? それって美味しいの?(勢いだけのへなちょこ英語)」と聞き返し、「パンやないペンやペン!(英語)」と会話をしながら、スマホで検索してみると・・・・・・
ありました! NAMIKI! パイロットコーポレーションが出している漆蒔絵万年筆の最高峰です! 値段は書いてないけど職人さんが一本一本手仕事で作ってる! こんなん、お金持ち外国人しか買わへん商品やん、日本人は知らんはずや。私のバイト先は書道用品専門店なので、筆ペンに関しては、慶事用(濃墨)弔事用(淡墨)に加え、万年毛筆(高級筆ペン)、卒塔婆用、墓石用、面相カラー筆ペンなどいろいろと取り揃えてますが、万年筆は扱ってません。
「すんません。この店ではナミキペンは置いてまへん(英語)」と言いながら、取り扱い店を検索すると、京都では伊勢丹百貨店10階の伊東屋さんでしか売ってないようです。仕事中は善良な日本人のフリをしてる私は「京都駅の伊勢丹の10階へ行ったら買えまっせ(英語)」と丁寧に教えてあげました。
個人的にインバウンド向けに最近発売した商品かと思ってましたが、意外と歴史があり、HPによると、1924年 並木製作所(現在のパイロット)の創設者である並木良輔と和田正雄が、万年筆の軸を作るのに漆を使って劣化に強く艶やかにする工法を開発、どうせ漆を使うのなら蒔絵を描いてみたらいいんじゃない? ということで、漆工芸界の草分け 六角紫水と彼の弟子で、のちに人間国宝となる蒔絵師 松田権六を招聘して蒔絵万年筆NAMIKIを開発、並木と和田が1925年から欧米諸国に行商に出かけ、世界に並木製作所の「NAMIKI万年筆」の名を広めたのだそうです。
へぇ~、こんなにステキなものなら一度は拝ませていただきたいものだと、私も伊勢丹10階の伊東屋さんへ行ってみました。
これまた驚いたことに、ショーケースの中にパイロット以外の会社の商品も含めて、たくさんの高級万年筆がずらりと並べられており、外国人が何人も覗き込んでいます。このコーナーだけでも専属の店員さんが2人おられ、かなりの売れ筋商品のようです。それにしても蒔絵が美しい。私が官能小説を書くのに使うのはあまりにもったいないぐらいのいいお値段ですが、1泊するだけでウチの家賃1年分ぐらいのお金を取られるリッツカールトンホテルに泊まって眠れない夜を過ごすぐらいなら、NAMIKIを買いたいです。
ねえ、社長~、ウチの店でもNAMIKIを売りましょうよ~ と言ってみようかな。「そんなもん仕入れる金がないわい!」と怒られそうですが・・・・・・
ではまた。