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#逆噴射小説大賞2019
カゴメ・カゴメ・スーサイドバタフライ
こんなにも暗い夜は初めてだ。
地下8階の底の底、人が遺棄した洞穴の底。XY軸方向に延びる、地下鉄という暗礁地帯。
初めて立つDESの外の世界は、湿気と塵埃にまみれていた。
こんなにも深い夜は初めてだ。
広域光条の輝きも、東京市民のIDも。手にあるものすべて通じぬ、地下鉄という汚染地域。
区民課にまわされて初めての仕事が、最後の仕事になろうとしていた。
肺が痛む。曝露し、侵された呼吸器が
ランナウェイ・テイカウェイ・パンケーキフィッシュ
「最悪の状況ね」
明かり灯らぬビルの谷間、吹き荒ぶ黒き風。風を貫き光線が走る。一条は黄色、一拍遅れ、赤。
赤黄にまたたく二つの影。すらりと輝く耐光線アウターに、ひらりと揺れる耐光線外套。
「気づいた時には旧区役所一帯に広がっていた。あっという間に増殖して、私たちだけじゃとても」
黄色の光線を屈折ランニングシューズが捉える。ソールが反力を蓄え、飛ぶ。細い身体が風を割く。
背後には外套がぴ
レイズ・ラインズ・タイトロープ
新聞配達は舞い降りる。
未明の街、漆黒の路地。深く切り立ったビルディングの隙間を、ひらりひらりと揺らめいて。
新聞配達は舞い降りる。
死した街、暗闇の路地。はためく耐光線外套の裾を、七色に輝かせて。
たくさんの新聞を抱えた新聞配達は、重力加速度の赴くまま速度を上げる。頭からまっさかさま、真っ暗闇の谷底へ。えんえん続く、底見えぬ谷底へ。
新聞配達はくるりと回る。空気抵抗を受けとめ、外套が円を