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実践できる褥瘡予防 - 体位変換から栄養管理まで

目次

  1. 褥瘡(床ずれ)とは何か――基本概念と重要性

  2. 褥瘡の発生メカニズムと病態生理

  3. 褥瘡のリスク要因と評価スケール

  4. 褥瘡のステージ分類と観察ポイント

  5. 褥瘡予防の実践――体位変換・栄養・スキンケア

  6. 褥瘡の治療とケア――ドレッシング材・ポジショニング・医療連携

  7. 多職種アプローチと組織的取り組み

  8. 家族支援と在宅ケアへの連動

  9. 倫理的視点――尊厳保持と身体拘束の防止

  10. 褥瘡ケアの展望――チームで築く質の高いケア環境


序章:褥瘡(床ずれ)とは何か - 基本概念と重要性

褥瘡(じょくそう)は、一般に「床ずれ」とも呼ばれ、身体の一部が長時間圧迫されることで血行不良が起こり、皮膚や皮下組織が壊死を起こす状態を指します。寝たきりや車椅子利用など、自力で身体を動かすことが困難な方に多く見られ、痛みや感染症リスクを伴う重篤な状態に進展する場合もあります。

  • 要介護高齢者への影響: 褥瘡ができると痛みや滲出液のケアが必要となり、生活全般のQOLが低下しやすくなります。

  • 医療費や介護負担: 褥瘡が進行すると入院が必要になったり、高度な創傷ケアが求められることから、医療費や家族・スタッフの負担が大きくなります。

  • 予防が第一: 一度できてしまった褥瘡の治癒には長期間がかかるため、早期発見・早期対策、そして予防策の徹底が何よりも重要です。


第1章:褥瘡の発生メカニズムと病態生理

褥瘡(じょくそう)は、主に身体の一部が長時間圧迫されることで血行不良が起こり、皮膚や皮下組織が壊死に至る状態を指します。しかし、その発生要因は単純な「圧力」だけでなく、摩擦やずれ、湿潤環境など多層的な要素が絡み合うのが特徴です。本章では、褥瘡がどのようなプロセスで生じるのか、具体的なメカニズムや病態生理を詳しく解説します。


1-1. 圧迫・ずれ・摩擦  -三大因子の具体例と作用-

  1. 圧迫(Pressure)

    • 持続的な圧力が組織を潰す

      • たとえば、骨の突出した部位(仙骨・坐骨・かかと・大転子など)がベッドマットや車椅子座面に長時間押しつけられると、毛細血管が圧迫され血流が遮断されます。

      • 組織に十分な酸素と栄養が行き渡らず、老廃物が排出されないままとなるため、細胞死(壊死)が進行しやすくなります。

    • 高齢者特有のリスク

      • 高齢者は筋肉量や皮下脂肪が少なく、骨と皮膚の間のクッションが薄いため、より少ない圧力でも早期に血行障害が起こる可能性があります。

  2. ずれ(Shear)

    • 皮膚と深部組織の“ズレ”が血管損傷を招く

      • ベッドを上げている時に利用者がずり落ちたり、移乗の際に斜めの力が加わると、皮膚表面と筋肉・脂肪層が異なる方向に引っ張られます。

      • その結果、血管がねじられたり切断されたりして、内出血や局所的な血行障害が悪化します。

    • 防ぎ方の具体例

      • 体位変換や移乗時にシーツやスライディングボードを活用し、引きずらないように意識する。

      • ベッドをギャッジアップする場合は膝の部分も適度に上げ、臀部が滑りにくい姿勢を作るなどが有効です。

  3. 摩擦(Friction)

    • 皮膚の角質層を削ってバリア機能を破壊

      • シーツや衣類に対して擦れが起きると、皮膚の最表面が削られたり、水疱が生じたりします。

      • 一見、表層だけの問題に思えるかもしれませんが、その傷から細菌が侵入しやすくなるなど、褥瘡を発症・悪化させる大きな要因です。

    • 予防への応用

      • 体位変換時には「持ち上げる」「滑らせる」など正しいボディメカニクスを使い、皮膚を直接強く引っ張らない工夫をする。

      • 摩擦の少ない素材(シルキーなリネン)や専用の滑りシートを用いることでダメージを軽減できます。


1-2. 湿潤環境と微小気候の重要性

  1. 失禁や汗が引き起こす浸軟

    • 尿失禁や便失禁が長時間放置されると、皮膚がふやけてバリア機能が低下します。この状態を「浸軟(しんなん)」と呼びます。

    • 浸軟した皮膚は、わずかな圧迫やずれにも耐えられなくなり、褥瘡が発生・進行しやすくなるため、失禁ケアやこまめな交換が不可欠です。

  2. 汗と蒸れによるかぶれ

    • 高温多湿の時期や、寝具の通気性が悪い状況では、汗が皮膚表面にたまりやすく皮膚のpHバランスが崩れます。菌が繁殖しやすい環境となり、皮膚炎や表面びらんが起こりやすく、褥瘡リスクが高まります。

  3. 微小気候(microclimate)管理

    • 最近のケアでは、皮膚とベッドの間の温度・湿度を「微小気候」と呼び、これを適度にコントロールする手法が注目されています。

    • 通気性に優れたマットレスや吸湿速乾のリネンを使用し、熱と水分がこもらないよう調整することが、褥瘡予防の一環として推奨されます。


1-3. 病態生理  - 酸素不足から壊死へ至る流れ

褥瘡発生の根底には、組織への血液供給が遮断(虚血)されることがあります。詳しい流れは以下のように整理できます。

  1. 圧迫による血流途絶

    • 骨突出部などで圧迫が続くと、毛細血管が押しつぶされ、組織に酸素や栄養が行き渡りにくくなる。

    • 同時に老廃物の排出も滞り、乳酸などが蓄積して細胞障害を起こしやすい。

  2. 細胞死と炎症反応

    • 血流不全が続くと、細胞は壊死(ネクローシス)を起こし、やがて皮膚表面や皮下組織が損傷。炎症を示す発赤や熱感が出現し、痛みを伴うケースが増える。

  3. 二次感染と深部進行

    • 創部から細菌が侵入すると感染が起こり、膿や滲出液が出る、あるいは悪臭が漂うなど症状が深刻化。

    • 最終的に筋・腱・骨まで到達する深部褥瘡に進行しやすくなり、治療が長期化するほか、日常生活動作や全身状態に大きな影響を及ぼすことがあります。


1-4. 早期発見・早期予防の重要性

  1. I度(発赤期)での対処がカギ

    • 褥瘡は初期(I度)のうちに圧迫を除去し、皮膚保護や栄養改善を図れば、深刻な潰瘍形成を防げる可能性が高いです。

    • 逆に、I度の段階を見過ごすと、あっという間にII度、III度へ進行し、治癒に時間やコストがかかります。

  2. リスク評価と定期モニタリング

    • BradenスケールNortonスケールなど、褥瘡リスクを定量化できるツールを使用し、リスクが高い人をプロアクティブに管理します。

    • 体位変換の記録、皮膚観察の記録などをスタッフ間で共有することで、小さな変化でも見逃さない仕組みを作ります。

  3. 多職種連携で全方位サポート

    • 介護スタッフが日常的に皮膚状態を確認し、看護師が創傷管理や医師との橋渡しを行い、栄養士が食事や水分摂取をチェックし、リハ職がポジショニングや筋力維持を支える。このように各専門職が連携し合うことで、最適な予防策と早期介入が実現できます。


まとめ:褥瘡発生メカニズムと病態生理の理解をケアへ活かす

第1章では、褥瘡がどのように発生し、どのような病態生理をたどるかを詳しく説明しました。圧迫・ずれ・摩擦・湿潤・栄養不良・循環障害など、複数の要因が重なり合う褥瘡は、放置すれば深刻な全身合併症を招く恐れがあります。
しかし、メカニズムをしっかり把握していれば、早期発見や適切な対策がより効果的に行えます。第2章以降では、こうした知識を実践に落とし込み、具体的なリスク評価やステージ分類、予防・治療の方法を解説していきます。


第2章:褥瘡のリスク要因と評価スケール

褥瘡(床ずれ)は、圧迫やずれ、皮膚への摩擦などによる血行不良や組織損傷によって生じますが、実際にはさまざまな背景要因が複合して発生します。本章では、褥瘡を発症・悪化させやすいリスク要因をより具体的に掘り下げ、さらにそれを客観的に評価するスケール(ツール)について詳しく解説します。リスク要因の理解適切な評価が、早期の予防策と対策立案に不可欠です。


2-1. 褥瘡のリスク要因

褥瘡の発症リスクを高める主な要因は、ADL(Activities of Daily Living)の低下栄養状態不良失禁など多岐にわたります。ここでは代表的な要因をより具体的に示します。


(1) ADL低下・寝たきり

  • 身体の動かしにくさ
    要介護高齢者や重度障害者などは、自力で体位変換や移乗が困難となり、同じ姿勢を長時間取りがちです。

    • 例:脳卒中で片麻痺がある方が一度ベッドの端に寄ったまま移動できず、その部位が強く圧迫され続ける。

  • 車椅子利用者の固定姿勢
    車椅子に長時間座りっぱなしで、座位の重心が常に仙骨部や坐骨に集中していると、局所に強い圧がかかります。

    • 例:車椅子での背もたれ角度やクッションが合っておらず、坐骨結節周辺に慢性的な圧迫が生じる。


(2) 栄養状態不良・脱水

  • 低栄養(たんぱく質・微量栄養素不足)

    • 皮膚や筋肉の合成に必要なたんぱく質やビタミン(A・C・Eなど)の不足は、褥瘡の治癒を遅らせる大きな要因になります。

    • 例:偏食や食欲減退が続き、体重が急に落ちた利用者は皮下脂肪も筋肉も減り、骨突出部の保護が乏しくなる。

  • 水分不足・脱水

    • 高齢者は喉の渇きを感じにくく、意識的に水分補給しないと脱水状態に陥りやすいです。血液がドロドロになり、末梢循環が悪化し、褥瘡リスクが増大します。

    • 例:失禁を恐れるあまり水分を控えすぎる方が、脱水気味になって皮膚が乾燥し、血流も悪くなる。


(3) 循環障害・血管病変

  • 糖尿病・末梢血管障害

    • 血行を悪化させる病気(糖尿病性末梢神経障害、閉塞性動脈硬化症など)では、皮膚や組織への酸素供給が低下し、微小な圧迫でも褥瘡が発生・悪化しやすくなります。

    • 例:糖尿病を長く患っている方が、足先やかかとに褥瘡を作りやすいのはこうした血流障害が根底にあるため。

  • 高齢者特有の血管脆弱性

    • 加齢に伴い血管壁が硬化し、弾力が失われているケースが多いため、少ない圧力でも毛細血管がつぶされやすくなり、虚血を起こしやすい。


(4) 失禁(尿・便)・多汗

  • 皮膚の浸軟と感染リスク上昇

    • 尿失禁や便失禁がある方でオムツ交換が遅れると、皮膚が常に湿って浸軟状態となり、脆弱化して褥瘡が形成されやすくなります。

    • 例:下痢が続いている方が、お尻まわりの皮膚が赤くただれ、そこを圧迫して褥瘡に発展する。

  • 多汗による蒸れ

    • 夏場や体温調節が上手くいかない方は、汗で蒸れやすく、皮膚表面のpHバランスが崩れて細菌繁殖やびらん(表面剥離)が起こる。褥瘡の発生母地になりがち。


(5) 高齢者の感覚低下・意欲低下

  • 痛みや不快感の訴え減少

    • 末梢神経障害などで痛覚や温度感覚が鈍いと、長時間圧迫されても本人が自覚しにくく、発見が遅れます。

    • 例:認知症の方が痛みを上手く表現できず、気づいたときには大きな潰瘍になっている。

  • 意欲低下・抑うつ状態

    • 「どうせ動けない」「変わっても仕方ない」という気持ちから、体位変換の協力やリハビリを拒みがちな方は、褥瘡リスクがさらに高まります。


2-2. 評価スケール(リスクアセスメント)

褥瘡の発生リスクを客観的に把握するため、各施設ではいくつかの評価スケールを導入していることが多いです。評価結果をもとに、重点的に予防策を講じる利用者を特定できるため、効率的かつ効果的なケアにつながります。


(1) ブレーデンスケール(Braden Scale)

  • 6項目の評価

    1. 知覚認知(Sensory Perception)

    2. 湿潤(Moisture)

    3. 活動度(Activity)

    4. 可動性(Mobility)

    5. 栄養(Nutrition)

    6. 摩擦・ずれ(Friction and Shear)

  • 具体例

    • たとえば「知覚認知:2(大部分は感じにくい)」「湿潤:3(しばしば湿っている)」「活動度:2(ベッド上中心)」...と点数を合計し、合計点が16点以下なら中リスク、12点以下なら高リスクなど施設基準で判定。

  • 使いやすさと注意点

    • 比較的簡単に評価でき、世界的にも使用例が多いスケール。ただし、日本人の体格や文化的背景に完全一致していない部分もあるため、施設独自の補正基準を設ける例もあります。


(2) ノートンスケール(Norton Scale)

  • 5項目の評価

    1. 身体状態(Physical Condition)

    2. 精神状態(Mental Condition)

    3. 活動(Activity)

    4. ADL度(Mobility)

    5. 失禁(Incontinence)

  • 特徴

    • 各項目を4点(良好)~1点(不良)でスコアリングし、合計点が12点以下ならリスクが高いなどの基準があります。

    • ブレーデンスケールより項目が少なく、シンプルで使いやすい一方、本人の栄養状態や摩擦・ずれといった要因が直接項目に含まれないため、他の情報と合わせて補足評価するのが望ましい。


(3) 施設独自のアセスメントシート

  • ブレーデンとノートンの統合・改変

    • 一部施設では、ブレーデン・ノートンそれぞれの強みを取り入れ、さらに「栄養状態」「痛みの訴え」など追加項目を設けた独自シートを運用することも。

    • 例:名称「褥瘡リスク総合判定シート」として、8~10項目を2~4点スケールで記録し、合計点でリスク分類。

  • 運用ルール

    • 新規入所時や定期カンファレンス時などに評価を実施し、スコアが高リスクなら計画的に体位変換を増やす、エアマットを導入するなどの策を講じる。

    • 定期評価の頻度(週1回、月1回など)は利用者の状態に合わせ、急変があれば随時再評価する。


(4) 評価結果のケアへの反映

  • 優先度の明確化

    • 評価スコアが高い利用者には優先的に体位変換や栄養サポートを行う。夜勤帯でも重点観察リストに含めて、オムツ交換や清拭の回数を増やすなどのケアが検討される。

  • スタッフ間共有

    • リスクスコアや具体的な理由(「麻痺がある」「栄養状態不良」など)を周知することで、全スタッフが同じ認識をもって協力しやすくなる。


まとめ:褥瘡リスクを正しく捉え、予防に繋げる

第2章では、褥瘡を発症・悪化させやすい多面的なリスク要因と、それを客観的に評価するためのスケールについて具体的に解説しました。利用者の身体状況・栄養・活動度・失禁など、複数の項目を総合的に見ながら、誰がハイリスクかを判断し、早めに予防策を講じることが褥瘡対策の要です。

次の第3章では、こうしたリスク評価を踏まえて褥瘡のステージ分類や創部観察ポイントを詳しく紹介し、実際に褥瘡が生じてしまった場合にどう観察・管理していくかを学びます。


第3章:褥瘡のステージ分類と観察ポイント

褥瘡(床ずれ)は、進行度合いによって皮膚表面の発赤から深部の骨組織露出に至るまで、さまざまな段階(ステージ)をたどります。適切なケアを行うには、まず「現在どのステージなのか」を正しく把握することが重要です。また、褥瘡の観察は単に大きさや深さだけでなく、滲出液(ドレナージ)や壊死組織の有無、におい、痛みの度合いなど多岐にわたります。本章では、褥瘡ステージ分類の詳細と、創部を観察する際の具体的ポイントを解説します。


3-1. 褥瘡ステージ分類の概要

世界的には、NPUAP(米国褥瘡諮問委員会)/EPUAP(欧州褥瘡諮問委員会)のガイドラインが広く参照されており、日本でもこの分類が用いられることが多いです。施設によっては微妙に異なる定義を採用している場合もありますが、ここでは代表的な4つのステージと、その他の特殊な状態について説明します。

(1) ステージI(皮膚発赤・浮腫期)

  • 特徴

    • 皮膚表面に持続的な発赤(紅斑)が見られ、指で圧迫しても色が消えない状態。

    • 痛みや熱感、軽いむくみ(浮腫)を伴うことがある。

  • 皮膚組織の深部はまだ損傷していないとみなされるが、ここで気づいて対策を取れれば褥瘡の進行を大きく抑えられる可能性が高い。

  • 具体的対応例

    • 圧迫を外す(体位変換)、エアマットやクッションを導入、スキンケアの徹底など。

(2) ステージII(部分損傷期:表皮~真皮層)

  • 特徴

    • 皮膚の浅い層が欠損し、水疱(すいほう:水ぶくれ)や浅い潰瘍を形成する。

    • 創面が赤色調で湿潤している場合が多く、黄白色の滲出液や軽度の浸軟が見られることもある。

  • 痛みを訴えるケースが多いが、認知症や感覚鈍麻がある方は自覚しにくい。

  • 具体的対応例

    • 体位変換の頻度を増やし、圧迫を最小限にする。

    • 褥瘡保護用のドレッシング材(ハイドロコロイドなど)を活用し、創部を乾燥させすぎず保護する。

(3) ステージIII(全層損傷期:皮下組織に及ぶ)

  • 特徴

    • 真皮を越えて皮下脂肪層まで組織欠損が深く進行している。

    • 創底が黄色や灰色っぽく見え、壊死組織(エシェア)が部分的に付着している場合もある。

    • 周囲の皮膚が硬くなったり、浮腫や炎症で赤く腫れる。

  • 具体的対応例

    • 医師やWOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)の助言を受け、壊死組織のデブリードマン(除去)や適切なドレッシング材の選定を行う。

    • 栄養状態の再評価や専門的なポジショニングも必須。

(4) ステージIV(深部損傷期:筋・骨まで)

  • 特徴

    • 皮下組織を越えて筋肉、腱、骨まで露出している可能性がある。最も重症な段階であり、感染が進むと骨髄炎などを併発する危険が高い。

    • 創部が黒色の壊死組織に覆われていたり、大量の滲出液や膿が出ることも。

  • 具体的対応例

    • 外科的処置(デブリードマン、場合によっては皮膚移植)を視野に入れた医療的介入が必要。

    • 痛み管理や薬剤治療、スタッフ間連携での集中ケアが欠かせない。

(5) その他の状態

  • Unstageable(評価不能)

    • 壊死組織などに覆われて創床が見えず、III度・IV度に相当するかどうか区別できない場合。

  • 深部組織損傷疑い(DTI: Deep Tissue Injury)

    • 紫~暗赤色の皮膚変色があり、見た目はステージI~IIに似るが、実は深部まで損傷が及んでいる可能性があるケース。触診や経過観察でステージを判断する。


3-2. 観察ポイント  「大きさ・深さ」だけじゃない」

褥瘡のステージを判断し、経過を追うには、複数の観察項目をバランス良くチェックすることが大切です。

(1) 創部の大きさ・深さ

  1. 測定ツール

    • メジャーや専用の創部測定シートを用い、縦×横、深さを定期的に記録。

    • 写真撮影をする施設も多く、同じ角度・同じ距離から撮ることで変化を客観的に比較しやすい。

  2. 周囲の皮膚の状態

    • 皮膚の硬化や腫れ、色素沈着、浮腫の範囲も観察。

    • 「創部そのもの」だけでなく、周囲組織がどう反応しているかが改善・悪化のヒントになる。

(2) 創面の性状・滲出液(ドレナージ)

  1. 色調(赤色・黄色・黒色など)

    • 赤色創は肉芽形成が活発で治りやすい段階、黄色創は膿や壊死組織があり感染リスクが高い状態、黒色創は壊死が進んで組織が死んでいる可能性が高い。

  2. 滲出液の量とにおい

    • 多量の滲出液はガーゼやドレッシング材の交換頻度を上げる必要があるし、強いにおいがする場合は感染を疑う。

    • 「臭気がいつもと違う」「色味が緑~褐色に変化した」など細かな変化も記録し、看護師・医師へ報告。

(3) 周囲皮膚温度・痛みの訴え

  1. 温度差のチェック

    • 炎症や感染があると、創部周囲の皮膚が熱感を帯びている可能性がある。逆に壊死が進んでいる部位は温度が低めの場合もある。

  2. 痛みや違和感

    • 「痛みが増している」「しびれるような感覚がある」など利用者本人が気づいている場合は重要なサイン。認知症や感覚障害がある方は、表情や仕草で読み取ることが必要。

(4) 創周囲の皮膚トラブル

  1. 浸軟(白っぽくふやけた状態)

    • 失禁や多量の滲出液で濡れていると、皮膚が浸軟して脆くなるため褥瘡が拡大しやすい。

  2. 二次感染・真菌症

    • 湿潤環境が続くとカンジダなどの真菌が繁殖して創周囲の皮膚炎を起こすケースがある。赤いブツブツやかゆみを伴うことが多い。


3-3. ステージ判断とケアプランへの連動

褥瘡は、観察を通じてステージを正しく把握し、創部に応じたドレッシングやデブリードマンの実施、体位変換頻度の決定などを行います。ここでは、ステージ判断がケアプランや治療方針にどう影響するかを概説します。

  1. ステージI・II

    • 基本的に保存的ケア(予防・保護)が中心となる。圧の除去・皮膚保護を徹底し、速やかな改善を狙う。

    • 皮膚バリアを守るための保湿や、創傷被覆材(ハイドロコロイド)の使用、褥瘡好発部位へのクッション配置などが鍵。

  2. ステージIII・IV

    • 積極的な治療介入が必要となり、壊死組織のデブリ(外科的・化学的除去)や創部の状態に合ったドレッシング材選定、場合によっては外科的処置(皮膚移植など)を検討。

    • 深部感染リスクに備え、抗生物質の投与や衛生管理を強化するほか、看護師や医師、リハ職、栄養士など多職種でチームアプローチを組む。

  3. Unstageable・DTI(Deep Tissue Injury)の疑い

    • 壊死組織に覆われて創床が見えない場合は、除去(デブリードマン)を行い実際の損傷深度を確認するまでステージが確定しない。

    • DTIは外見上はステージI~IIに似ていても、急激に深い壊死へ進行することがあるため、密な観察と早期介入を心がける。


まとめ:ステージ把握と観察が的確なケアの第一歩

第3章では、褥瘡のステージ分類(I度~IV度、Unstageable、DTI)とそれぞれの特徴、そして創部を観察する際の具体的ポイント(大きさ、深さ、滲出液、痛み、周囲皮膚など)を解説しました。

  • ステージを正確に見極めることで、どの程度の治療・ケアが必要なのかを判断しやすくなる。

  • 観察の精度が高ければ、わずかな悪化や改善を早期にキャッチし、適切なドレッシング材の変更や体位変換の見直しなどが迅速に行えます。

次の第4章では、こうしたステージ判定を踏まえた具体的な予防方法(体位変換、栄養管理、スキンケアなど)をより詳細に解説し、褥瘡の発生を阻止する実践的アプローチを学んでいきます。


第4章:褥瘡予防の実践 -体位変換・栄養・スキンケア

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