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介護現場の感染症予防完全マニュアル:5つの章で築く安全・安心ケア ①

【第1章】感染症予防の基本原則 ~日常業務に溶け込む実践的ガイドライン~

介護施設において感染症予防は特別な事例対策ではなく、日常業務における必須の取り組みです。高齢者や持病のある利用者様を多く抱える現場では、感染症が発生すると重症化リスクが高まり、全体の業務運営に甚大な影響を及ぼします。そのため、日々の些細な行動の積み重ねによって、感染リスクを最小限に抑える「基本原則」の確立が求められます。

1-1. なぜ感染症予防が重要なのか

  • 高齢者と基礎疾患を持つ利用者様への影響:
    インフルエンザやノロウイルス、コロナウイルス、肺炎球菌など、感染症は高齢者や慢性疾患を持つ方にとって重篤化しやすく、介護負担増や入院リスク、最悪の場合、生命に関わる問題となります。

  • 施設全体への影響:
    一度感染が蔓延すれば、スタッフの感染・離職、外部評価の低下、地域社会からの不信感など、業務継続そのものが危ぶまれます。

  • 予防は最大の防御策:
    早期対応や予防策の徹底は、重度事態を避け、利用者様・家族・スタッフの安心確保につながります。

1-2. 日常業務に溶け込む手指衛生・標準予防策

(1)手指衛生の徹底

  • 具体的なタイミング:

    • 利用者様の食事介助前後

    • 排泄介助後

    • 休憩明け・勤務終了時

    • 鼻をかんだ後、顔や髪に触れた後
      手指衛生は手洗いまたはアルコール消毒で行い、最低20秒かけ、手のひら・甲・指間・爪先・親指付け根・手首までしっかり洗います。

  • 現場への落とし込み例:
    洗面所や詰所、居室入り口など、頻繁に立ち寄る場所にアルコール消毒ポンプを配置し、「見たら必ず消毒する」という行動を定着させましょう。手洗い手順を描いたポスターを貼り、手順を視覚化することで、誰が見ても正しい方法をすぐに理解できます。

(2)標準予防策(Standard Precautions)の徹底

  • 基本理念:
    全ての利用者様は潜在的な感染源となり得ると想定し、常に一定の防御策を行います。特定の感染症が確認されていない場合でも、油断せず標準予防策を実施することで、予期せぬ感染蔓延を防ぎます。

  • 具体的な実践例:
    口腔ケア中はマスク・手袋・ゴーグル(またはフェイスシールド)で飛沫を防止。排泄介助時は手袋・エプロンを必ず着用し、その後の手袋外しは正しい方法で行い、外した後は即手指消毒を行います。

  • 物品管理:
    個人防護具(PPE:マスク、手袋、ガウン、エプロン、ゴーグルなど)は汚染度に応じて使い捨てもしくは都度消毒。清潔な保管場所を定め、常に所定の位置にあるようにします。

1-3. 清掃・消毒・衛生環境の整備ポイント

(1)共用部位の消毒ルーティン化

  • 頻繁に触れる箇所:
    ドアノブ、手すり、スイッチ、リモコン、車いすの持ち手、歩行器のハンドルなどは1日複数回、アルコールや指定された消毒液で拭き取りましょう。

  • チェックリスト活用:
    誰が、いつ、どこを消毒したかを記録する簡易チェックリストを導入。交代勤務でも消毒漏れを防ぎ、管理者は一覧で進捗を把握できます。

(2)衛生用具・消耗品の適正管理

  • 備品在庫の確保:
    マスク、手袋、消毒液などは常に一定の在庫基準を設け、無くなりそうになったら即座に補充。特に感染流行期には早め早めの調達を心掛けます。

  • 衛生環境づくり:
    換気をこまめに行い、適度な湿度(40~60%程度)を保つことで、ウイルス・菌の繁殖しづらい環境を整えます。

(3)嘔吐物・排泄物の正しい処理

  • 処理手順の周知:
    嘔吐・下痢が発生した場合は、即座にPPE(手袋、マスク、エプロン)を着用し、使い捨てペーパーで拭き取り、その場所を次亜塩素酸ナトリウムなど適切な消毒液で処理します。

  • シミュレーション:
    定期的な研修で、想定ケース(食堂で利用者様が突然嘔吐した場合など)を話し合い、迅速な対応フローを身に付けます。

1-4. 利用者様とスタッフ双方を守る基本行動

(1)スタッフ自身の健康管理

  • 体調不良時の早期報告:
    スタッフが軽い発熱や咳、のどの違和感を覚えたら、直ちに上長へ報告し、無理な出勤は避けます。感染症を職場に持ち込むリスクを断ち切るための重要なステップです。

  • 定期的な健康チェック:
    日々の検温、体調記録を習慣化し、異常があれば速やかに対処。スタッフ同士で声を掛け合い、遠慮なく報告し合える職場文化を築きましょう。

(2)利用者様の健康モニタリング

  • バイタルサイン・食欲・睡眠パターン:
    微熱、呼吸数増加、微妙な食欲低下など、小さなサインを見逃さず申し送りノートや電子カルテに記録します。早期報告で重症化を防止。

  • コミュニケーションを重視:
    「今日はよく眠れましたか?」「食事の味はどうでしたか?」など、日常的な声かけで利用者様の変化を把握します。

(3)情報共有と学び合い

  • 定期ミーティング:
    朝礼や申し送りで、感染関連の注意事項、利用者様の状態変化、最新ガイドライン更新情報を共有。短時間でも全スタッフが同じ認識を持つことで、対策が統一されます。

  • 簡易マニュアルやチェックリストの活用:
    煩雑な手順もイラストや表で視覚化し、誰でも見ればすぐ分かるようなツールを整備。新人スタッフやパート職員も迷わず行動できます。

1-5. スタッフ間の意識づくりと継続的改善

(1)ポジティブアプローチで予防策を促す

  • 褒め合い・励まし:
    手洗い実施率が上がった、清掃記録に漏れがなくなった、体調不良時の報告がスムーズになったなど、良い行動を積極的に共有し、職員間で称賛し合いましょう。肯定的な職場文化は取り組みの継続性を高めます。

(2)定期的な研修・勉強会の実施

  • 最新情報のアップデート:
    季節ごとにリスクとなる感染症(インフルエンザ流行期、ノロシーズン)に応じて研修を実施。厚生労働省、保健所、学会などの最新情報を取り入れた資料で知識を更新しましょう。

  • 疑問・課題解消の場づくり:
    スタッフが気軽に質問できる機会を設け、「なぜこの対策が必要なのか」を理解させることで、自発的な行動を促します。

第1章まとめ

感染症予防の基本原則は、特別なことを求めるわけではありません。手指衛生、標準予防策、定期的な清掃・消毒、健康観察、情報共有といった「当たり前」の行為を徹底し、組織的に運用することで、現場の安全性とケアの質は飛躍的に向上します。これらを習慣として根付かせることで、利用者様が安心して過ごせる空間、スタッフが自信を持って働ける職場環境を実現できるのです。

次章以降では、各予防策をさらに掘り下げ、実際の感染拡大予防やBCP(事業継続計画)など、応用的な内容へと展開していきます。日々の小さな積み重ねが、施設全体の安全と質を左右することを忘れず、基本原則をしっかりと押さえましょう。

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