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ニャーリーつつたーん
みなさんにお知らせしなければならないことが山積みになったまま、
どうにも筆が進まなかったことを正直に綴ろうと今思い立ち、書いてます。
まず、ニャーリーの介護で日々追われていました。
それでも、私の日常というものもあって、今はご存知の通り、週刊文春での映画レビューの毎週締め切りがあるので、そこへの準備として映画を見ないとなりません。と言っても限界はあるわけで、まあ毎日とは言わなくてもほぼ毎週4本以上は見る感じに。そしてそれ以外でも何度も見たいものや、メディアでは取り上げないけれど個人の興味で見るものも当然あるわけで。それ以外だと、俳優としての活動につながるかもしれない基礎作りじゃないけれど、普通に読書したりもするし、くだらない買い物や放浪のほっつき歩きも含めたら、毎朝猫の介護から始まり、寝るまでの間のプライオリティとして、まずは猫の介護、そして自分のこと、家族となるわけですが、この数週間は腰の故障もあり、何が何だかヘルタースケルターなてんやわんやな日々でした。
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気づけば、私はすっかり猫介護に奔走していました。
朝から彼女を連れていつもの道すがら、ガチョウ三兄弟に見送られ、
お!ニャーリー今日も通院頑張れよ!と、言ってもいないけれど言ってるように聞こえてくる奴らの愉快な佇まいに救われ、ありがとねー!ニャーリー頑張るよ!と返しながら、保育園の門に咲き誇るミモザの黄色にも、ニャーリー綺麗だよ!ほら!美味しそうだよこの黄色!と、猫にミモザの黄色のポンポンを眺めさせ、つつたんだね、つつたんつつたんと、拍子を踏みながら意味不明の合いの手を連呼するのでした。
「つつたん、つつたん」
診察中もつつたんはずっと唱えていて、これはもう「えいえいおー」みたいにもなるし、「痛いの痛いの飛んでけ」じゃないけど「ちちんぷいぷい」的な「ビビデバビデブー」じゃないけど、おまじない的に、唱えていれば、気分も高揚するような、つつたんつつたんと呪文みたいに唱えていたのでした。
診察台であまりの痛さにニャーリー思わず放尿する場面に出くわした時、自分もあまりのショックからの解放に放尿した時の訳わからない切なさを思い出し、いてもたってもいられず、にゃーちゃんつつたーん!つつたんつつたん、大丈夫だよ、何も間違ってないし、それでいい、つつたーん!あんたは偉い!とまで耳元で囁いてあげた。私は一体何を伝えたかったんだか。
そのうち、点滴は自宅にてやれるようになり、週1の血液検査に通うだけになったんだ。でも、私はこの点滴が下手で。ニャーリーはそれでも病院で受ける時よりも、穏やかにその痩せた体を私に預けてくれた。
針は痛かったはずだ。皮下注射だったので、何度か失敗すると本当に痛かったはずだ。それでも耐えていた。点滴が体に浸透せずにお腹に溜まり始めてしまい、好物のパルミジャーノレジャーノも口にせず、時たま食事中に干物なんかあげるとむしゃりと食べてくれて、ああ、やっぱりうちの子だな、青魚の干物が大好きなんだ。そんなふうに介護は何か項垂れながらも一喜一憂、ニャーリーを囲んで久しぶりに我が家の寂しかった食卓にも春が訪れた。
獣医のドラマや映画がもしあるのだったら、私はぜひヒポクラテスたちのような獣医大学からの同級生がやがて巣立って医者になる話をやってみたいと思った。そこには浅田美代子さんみたいな動物愛護に一生懸命な芸能人もいたり、政治家もいたり、多岐に渡り様々な登場人物とその猫たちがいて、猫に成長と生きることを気づかせられるというシンプルな設定がいいなとか、いろんなことを妄想したり。
でも、実際は、介護しながら、今私がこうして輸液してることは大いなる間違いではないかと、自分の行動に疑問を抱くこととも対峙していた。私はただ自分の都合で延命を望んで要るだけで、本当はもうとっくにニャーリーは死を選択しているのではないのか。などと。
そんな矢先見たのが『茶飲友達』だった。
気になっていた映画で、某ディレクターと話していた時に、そのタイトルと映画の存在を知らせたら、彼女もぜひ見たいと申していた。
その理由に驚かされた。義父が参加していたさいたまゴールドシアターのメンバーがキャストで出演していたからだ。しかも黒い下着姿のポスターを飾る女優がまさにそれで驚いた。正しいこと、正しくないこと、ルール、擬似的なもの、作品の中で飛び交う台詞の間に、動く人間がいる。映画の中で、若いも老いも全てのキャストが「生きてる」そのものに対峙し、真摯に向き合っていた。その姿、目線、手足、揺れる髪、声、背中、全てにわたしは感動し、ヒカシューの名曲「生きること」の歌詞を重ねていた。
泣きたい時は花になる
冴えない時は風になる
生きることーーーーーーー!!!!!
混沌とその音通りに、転がるように胸騒ぎがして、私が母のお腹にいた時に散々乗った井の頭線に飛び乗り家路を急いだ。駅を降りてお家が近づくにつれて、朝介護した時の排泄物の糞尿の匂いが強烈に鼻腔の奥に感じた。ぐんぐんそれは強くなっていた。どこからこの匂いがするのだろうと半ば疑問に思いながら。
「ニャーちゃん帰ったよ!ごめんね、遅くなった」
部屋のドアの前に4匹の猫ちゃんずの置物が1匹だけ床に転がっていた。彩からもらったその猫ちゃんずは4匹いるのだが滅多に転がることのない場所に置かれていたはずなのに。一瞬嫌な予感がした。
椅子に寝ているニャーリーを抱き上げようと我が身を屈め机の下を見ると、閉じられた口元からよだれを一筋垂らし、やや仰向けに何か何処か飛んで行きたかったかのように、手足を伸ばしたままのニャーリーの姿が確認できた。
硬直は始まっていた。
でもまだお腹が温かった。
呼吸はなかったが、もしかしたらと、並木先生に電話をした。
猫ちゃんの舌は出ていますか?何色ですか?
舌など出ていなかった。だから何色かもわからなかった。
苦しんでいったかんじではないみたいですね。
先生とのやりとりが混線した無線のやりとりみたいに聞こえた。
これ、もうダメなんですよね、温かいんだけど、無理なんですよね。
もう手足が硬直して、目が閉じないとしたら、もう死後硬直が始まっちゃってるんですよね、少しマッサージしてあげてください、元に戻るばあいもありますから。頑張ってくれたんですけどね、残念です。
もう「ありがとうございました」というしかなかった。
生きることは、矛盾だらけです。
でも、尊く、健気で、無垢で、儚げで、美しく、強く、愛そのものです。
20年前の春。この豆大福の如く愛らしい肉球の小さな足で私の元へやってきたこの猫に、愛の塊を感じました。彼女こそが無垢で弱く健気で「愛」そのものでした。
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愛よ、私を置いて行かないで。
愛よ、私の愛。
ミモザを捧げよう。
一緒に通院途中に愛でたミモザを。
保育園に頼んでいただいてきた。
今夜出棺の際、棺に手向けます。
みんな、私を支えてくれてどうもありがとう。
また綴ります。ニャーリーとのこと。
つつたーん。
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