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2007年の7月の私が残したメモ

 7月生まれの蟹座のあの人は
夏が好きで、太陽電池で生きている。
果物が好きで、葡萄の皮をせっせと剥いて食べさせてくれる。
海が好きで、砂だらけになって浜辺でグウスカピー居眠りしてる。
草花を育てるのが好きで、夏の花が咲くと子供のようにはしゃいでいる。
茄子が好きで、煮浸しを作るとあっという間にたいらげてしまう。
半袖短パンが好きで、体毛の少ないツルツルの足を長椅子にけだるそうに投げ出している。
浴衣が好きで、だけどひとりでは着られない子供のような人。
頭がいいのかバカなのか人をはぐらかす人。
感動してすぐ泣いてしまう人。
両親の愛情を一糸に受けてのびのび育った人。
快楽主義の留まることを知らない人。
臆病でだけど雨に濡れた仔猫を放っておけない人。
そんなあの人のことならよく知っているつもりが、実はまだ半分も知らないような気がしてならない。
きょうは1人じっくり考えてみてもいいかな。

 宮古島のマンゴーとパッションフルーツ。太陽の恵みがいっぱいの朝食で一日が始まる。

                    ~つづく~


 橋を渡る。
 大きな橋。車がほとんどいない。エアコンを消して窓全開で走らせる。
 時速40キロ。のほほんとハンドルを握る。
 小さな島。ぐるっと一周。
 小さな横断者。ウズラの番い。炎天下の太陽の下、焼けるながんばれ!
 白い砂浜の道を登ると見えてくるのはコバルトブルーの海。
 魚がたくさん寄ってくるので、しばらく魚と散歩。
 シュノーケルも足ひれもいらないアタシは魚とどこまでも泳いでいく。
 どこに行っても美しい海とのどかな風景。
 ここはいったいどこなんだろう。
 ゆっくり考え事してたら、またどうでもよくなってきた。
 人をふぬけにさせるパワー。
 都会人にとってこれって大切なことかもしれない。
 カツカツするな。辛くとも笑顔を絶やすな。
 生きたいように生きる。
 沖縄戦でここもきっと色々あったにちがいない。
 だけど、昨日もきょうも明日に向かって生きてる。
 笑うしかないんだよ、悲しすぎるとね。
 ツライなんて口に出したら、崩れちゃう。
 お腹の傷跡も気にし始めたらなにも出来やしない。
 小さくなって生きていくタイプじゃない。
 もっと大らかに翼を広げて生きていきたい。
 誹謗中傷は職業柄つきもの。
 ただ、今、ここにこうしてひとりで生きているアタシを
 誰も誹謗中傷しないことは確か。
 きょうもどこかで誰かが泣いている、苦しんでいる。
 誰かと話せたらどんなに楽になれるんだろう。
 アタシでよかったら力になってあげたい。でも、誰が手をさしのべても
 きっと氷のように固くて冷たいのかも。
 低温やけどしてもいいからそっとゆっくり手を当てて溶かしてあげたい。

 早々に引き上げて、サンセットディナー。
 沖縄金武の街で採れた鰻の蒲焼き。日射しのせいか眩暈気味。ちょっと力つけよう。
 薬には絶対頼らない。持参したお守り代わりのヒルナミンもソラナックスもマイスリーも
 飲んでない。この調子で乗り切れひとり沖縄!
 残り物のゆし豆腐とトマトのスープ。かつおダシと世界一ミネラルが豊富な海塩で味付け。
 もずくのシークワーサー酢のモノ。ゴーヤーの塩もみ。
 陽が暮れるのを待ちながらゆっくり食べる。
 半分も食べられない。お腹いっぱい。


  

 目覚めのいい朝。
鳥のおしゃべりに耳を傾ける。
「きょうも暑いわよ!沐浴しなきゃ羽がべっとりしちゃう」
自然と対話することの心地よさ。
 島のひととしか喋らない新鮮さ。
  日常会話から抜け出すと、言葉はいらない気がしてくる。

 海を眺めながら食べる朝食。
ハイビスカスのお茶の赤がいいコントラスト。
持参した愛用のシリアルボール。
10年つかってる。
食べ終わるとカーミットが
「hohoho~!」と笑ってくれる。
いつもと変わらない朝食。
「沖縄行ってもそれたべてんのかよ」笑われそうだけど、
これが定番なので崩したくない。
ヨーグルトにココナッツシリアルに沖縄黒糖の黒蜜をかけて。
豆乳がおいしい。
久米島の天然水。ごくごく。カラダに染み渡ったら
 いざ、レンタカーを借りて出陣!
                 ~つづく~

 カーラジオから流れる中国語の放送を聴きながら
 信号のない島を風まかせにドライブ。
 道に迷ったっていい。
 すぐに何色ものブルーを溶いた海が見えるから。
 魚のおうちお宅拝見。 
 桃色珊瑚のおうち、まんじゅうみたいなおうち、
 みんな仲良く暮らしてる。
 コバルトブルーのお嬢さん、オレンジに白い縞のお嬢さん、
 みんなキレイな魚たち
 
 海を見てるとどうでもよくなる。
 「そうだよ、どうでもいいんだよ」
 独り言。
 親子連れの家族の会話に幸せを感じる。
 アタシもあんな時代があったんだ。

 老夫婦がよたよたと農作業の帰り道、車に乗せてくれと尋ねてくる。
 仲良く寄り添ってドアを開け、妻を先に乗せる夫。
 車が故障したらしい。
 幽霊じゃないかと半信半疑。
 「あそこの集落まででいいです」
 導かれるまま車を走らせる。
 集落が見えてきた。
 「ホントにありがとう。神様みたいです」
 そんな、、、あなたたちが神様みたいです。
 しわくちゃの笑顔。
 今までで一番最高の笑顔だった。

 農協で土地の野菜を買う。
 夕飯の支度。
 ゆし豆腐スープとゴーヤのおひたしを作りながら、
 紅芋を蒸かす。
 それをつぶして茶巾を絞る。
 持参した肉桂と黒糖黒蜜で作る。
 ほんのり甘いお菓子。
 
 なにもない一日。会話したのは老夫婦だけ。
 いい。この調子。



 アタシはスプーンとカップをバッグに詰めてここに来た。
愛を確かめるために。
自分を愛しているのか。
ちゃんと自分を愛せているのか。
自分をちゃんと愛せないとなにも愛せない。
風が通りすぎてゆく。
愛を乗せて吹く風がアタシの横顔をすり抜けてゆく。
ぽっかり海に浮かんで遠くのまたその向こうの波を見つめる。
いつまでも、ひとりで浮かんで。
誰もいない海に。
空に二つ頭の鳥を見たような気分。
二つ頭の鳥は片方があっちへ行きたいと鳴き
もう片方がこっちへ行きたいと鳴く。
アタシはひとりだ。
だから、どっちへでもゆける。
風のように自在だ。
愛しい人に逢いたくなってきた夕暮れ。
だけど、まだ帰らない。
もっと愛を確かめるまでは。

 
 2004年の療養から、
 3年目の沖縄です。
 こうしてひとりで旅が出来るようになれました。
 これも皆さんのおかげです。
 女優としてまた輝きたい、そう思ってきました。
 
 3年前と同じように
 海に浮かんで昨日いっぱい泣きました。
 お腹の傷を一生懸命撫でながら
 海に浮かんで思い切り泣けました。
 これからも泣きます。
 だけど泣いたぶんだけ、顔いっぱい笑えるようになりました。
 これは大変な進歩です。
 時間は掛かるけれど、ここまでこれました。
 これからもゆっくりだけどアタシらしく生きてゆけたらなって
 思います。
 どうか、見守ってくださいね。

宮古島にて。



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