スタートアップの使命は所詮飾り物なのか。ーーLuup、メルカリの炎上から考えるスタートアップの宿命

都市部でよく見かけるようになった緑色の電動モビリティを提供するLuupが炎上しているそうです。

Luup社の代表である岡井さんが「違反者は一部であり、撲滅できる」というメッセージを出し、『Luupが危ない』というイメージを払拭しようとしたようですが、実際には全く逆の反応になったという結果になったようです。

Luupは一ヶ月ほど前に、元警視総監を監査役にいれるなどロビイング活動も含めて盤石の体制を敷いてますが、それについてユーザーが安心するかと思いきや、天下りなどの憶測が飛び交う結果となっており、どうもLuup社が思っているようなイメージ戦略になっていないようです。

そして、時を同じくしてスタートアップ界の雄とも言えるメルカリもSNSから炎上し、議論が起こっているようです。

今や政府からもその動きを推進され、停滞する日本経済を牽引する期待をされているスタートアップがこれだけ非難されることになったのか。

記録の意味も含めて、個人的な観測結果とそれから見えてくる原因を考えていこうと思います。

スタートアップに追い風の時代

僕が起業家になったのは2014年くらいのことで、当時は今ほどスタートアップという言葉も馴染んでおらず、ベンチャーブームが一通り落ち着いてきて、社会起業家!みたいな感じで呼ばれ出したくらいの時期だったと記憶しています。

そんななか、ここ5年ほどでスタートアップが急激に社会的な注目を浴びるようになり、政府も含めてスタートアップがこの国の経済を発展させていく!みたいな空気感になりました。

ちょうど2022年には政府が『スタートアップ元年』と言って、5か年計画なるものを公開した時期ですね。

これについては、日本がコンプレックスを持っているアメリカの経済的成長を要素分解して、結局はGAFAMなどと言われるいくつかの巨大テック企業が大きな成長をしたことで牽引された、という事実があり、そのどれもがスタートアップとして小さな規模から爆発的な成長をした結果である、ということでそれを日本でもやりたい!というシンプルな話なのかなと思います。

こういう大きな流れもありつつ、個別のスタートアップ企業がどんどん上場などを果たすなかで存在感を増してきたというのもわかりやすく影響しているかなと思います。

さて、そんなこともあり、基本的にどんどんスタートアップ歓迎のムードが醸成しつつありますが、冒頭に述べたような問題も噴出しているのが現実なわけです。

どうしてこんなことになってるんでしょうか。

『スタートアップだから』という盾

冒頭のLuupの件など反応を見ていると、スタートアップに近いところにいる人と、そうではない人との間で大きな齟齬があるように見えます。

スタートアップ関係者からすれば
『スタートアップがいきなり十分なケアや体制を確保できるわけもなく、粗を探せばいくらでも出てくる。そんなところを叩いていれば何も挑戦できない』

というような意見が見られました。
これは実際に一つのスタートアップを経営している起業家としては、とてもよくわかります。
スタートアップというのは、『飛行機の部品だけ持って崖から飛び降りて、地面にぶつかる前に空中で組み立てるようなものだ』という例え話があったりしますが、まさにそんな感じで十分な金、物、人もないなかでやれるところからやっていって後で帳尻をあわせる、みたいなことをやっていく必要があります。

なので、保守対応や『あったほうが良いよね』みたいな機能は開発時点で優先順位が下がります。
仕方ない部分がありますが、もちろん問題になる箇所でもあります。

昨今においてはユーザーの方ですら『初期の頃は不便でもしょうがないよね』と許容してくれることが多いです。(弊社でもそうでした)

ただ、じゃあそれっていつまでなのか?という問題があります。

今回炎上したメルカリは、『返品詐欺』が問題になったわけですが、これは最近出た問題ではなく、昔から起こっていたそうです。
ああいったプラットフォームの特性上、買い手よりも売り手側を優先していかなければ市場として成立しないので、売り手側に生じる問題に対しては優先的に体制を拡充させます。(僕の記憶では、メルカリの初期は売上のお金を引き出すみたいなのができなかったみたいな話を聞いたことがあります。すぐに改善されたようですが)

そういうことなので、買い手に関する問題が対処が遅れます
※今回の問題としても、規約上はメルカリは売買の場を提供しているだけで個別の売買についてのトラブルは責任を追わないとあります。

これもスタートアップとしての理論で言えば、後々対処していけばいいじゃんとなるわけですが、問題はいつまでその論理で許容されるのかという話で。

メルカリのように、すでに上場までしていて、そこそこ年数も経った巨大企業に対して、スタートアップだから不整備でもしょうがないよねっていうにはさすがに無理があるように思います。

Luupに関しても、同様の問題ではあると思います。

過去の炎上でも、こういったポートの問題がありますが、急拡大をしていこうとするときに無理に増やそうとした結果、本来ルール違反のところにポートを置いてしまうということも起こり得るわけですね。

未来の成長が、現在の社会的不利益を許容してくれるのか?

こういった問題は、スタートアップに限らずよくあります。
例えば、先日ついに明確な規制ができましたが、自社の人間に無理やり商品を買わせる自爆営業がありましたが、それも会社の成長を促すための一時的な措置と言ってしまうこともできます(ありえないですが、それがまかり通ってたわけです)

企業を成長させようとすれば、それだけ他よりも大きな努力が求められます。むしろ、これまでのスタートアップが大企業に勝てていたのは、ルールや規制にがんじがらめになっているなかで、『バレなければOK』みたいな論理で、グレーゾーンをひた走って稼いだあとに少しずつ組織基盤を整える、みたいなことを成功のセオリーだと語る人は少なからずいます。

実際そういう成長を辿って、今や上場企業とまでなっている企業があるのは間違いありません。

これも今現在グレーゾーンを走るスタートアップとしては、『ゆくゆく上場して大きな価値を生むんだから目をつぶれよ』みたいな視点でもあります。

これは『ガンガン赤字を掘ってJカーブの成長をして、あとあと投資家に利益還元できればOK』というスタートアップの流儀としては暗黙の了解的に一定の同意が取れる空気にあります。

ただ、それもスタートアップによって利益をもたらされる人たちの間でしか通じないことである、というのを忘れてはいけません。

それこそ、そんなことはユーザーさんには関係ないですし、それに隣接した人たちが迷惑をかけられていい理由にはなりません。

Luupなどの社会インフラになっていくようなサービスはまさにこの点において、一企業として取れる責任の範囲から外れやすいという側面があるので取り沙汰されることが多いんだろうなと思います。

スタートアップのミッションは所詮、飾り物なのか?

あとこれは今回の炎上において直接的な原因というわけではないと思いますが、前提としてスタートアップが炎上しやすい要因があると思っているという話です。

そもそもスタートアップにいると忘れがちですが、スタートアップというのはそれだけで嫌われやすい存在だと僕は思っています。

なにせ、これだけ公に優遇されている存在でもあり、資金調達などのたびに誇らしげなニュースを出して、『俺達頑張ってる!すげー!』っていう空気を出していくわけですからね。

もちろん、こうでもしないと誰にも知られませんし、必要な広報戦略です。弊社でももちろんやっていますし。
ただ、自社だけに限らず、これまで『スタートアップ』という存在が培ってきたイメージというのは決して良いものだけではないとわかっておくべきです。

また、スタートアップだって結局は『商売』なわけですから、社会のためだ!と声高に言ったとしても『いやいや、それで儲けたいだけでしょ?』と言われてしまえばそれまでです。

実際、商売ですからね。そりゃそうです。

ただスタートアップの人たちのなかには、『俺達は社会のためにやっているんだ!利己の利益だけを追求しているわけではない!』と怒る人も少なからずいます。

そりゃそうかもしれませんが、結局は商売です。しっかり儲けて、自分たちがいい暮らしをしていくための仕事であることは否定しようがないと思いますし、そこを否定しようとするから色んなところに歪が生まれて、『綺麗事言って悦に浸ってるだけやろ、キッショー』みたいに言われるわけで。

別にいいんですよ。
僕らは所詮、自分たちのエゴでスタートアップを経営してるわけで、僕らがこうすれば社会がよくなるんじゃないかっていうのも、それは僕らから見た世界の話であって、他の人にも同じように見てほしいというのは都合が良すぎますし、さすがに幼稚な考えだと思います。

……なんて言いつつも、じゃあスタートアップにとってミッション(使命)やパーパス(目的)、そしてアイデンティティ(存在意義)が意味がないのかというと全くそんなことはないです。

今までいくつかの会社を経営して、潰したり、譲ったりしてきた身として、これらの考えは社外の人に理解してもらうことではなく、社内にとってこそ重要なものになると思っています。

特に、会社を経営する人間にとっては決して忘れてはいけないものであり、会社の意思決定を行うための道しるべになるものです。

これからの時代に成功したいなら、綺麗事を綺麗事のまま成功するしかない

一例ですが、弊社の存在意義は『出版業界をアップデートする』というものであり、そのための会社として、経営/開発/制作の3つのレイヤーで行動原理が出来上がっています。

これがあるからこそ、ウチがなにかをする際に『それは出版業界をアップデートすることにつながるのか?』というような考えが持てますし、自身の判断に合理性があるのかがわかります。

自分たちが誤った道にいかないようにするコンパスみたいなもんですね。

だからこそ、めちゃくちゃ重要です。

ただ、実際に経営をしているなかで、どうしてもこのミッションやビジョンというのは形骸化しやすいものです。

・3ヶ月後に資金が尽きる…!
・資金調達のために足元の数字を作らないといけない!
・組織体制の拡充が間に合っていない!

などなど、様々な問題が短期的に起こってしまうので、そんななかで常に大きな目的を見据えていられるかというと難しいという現実があります。

ただ、それでもこれからの時代において正しく成功するには、その綺麗事を綺麗事のまま事業を成長させないといけないんだろうなと思います。

スタートアップはゼロからイチを作る組織ですが、本当の意味でゼロからは作れません。
人やお金と言ったものをどこかから集めて、いろんな方に助けてもらう以外にやれる道はありません。
それはつまり、ビジョンやミッションという綺麗事に対して、共感してもらって集めていくしかないであり、それは未来に対しての約束事です。

スタートアップをやっていると、『ピボット(事業の方向転換)は当たり前』という人たちもいますが、僕はそれを当たり前にしてはいけないと思います。
特に『何を成そうとしたのか』という目的において、変更されるのは約束を破ることだと思います。

今回問題となった会社で見てみると

メルカリ

新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る
これは誰もが簡単にモノの売り買いを楽しむことによって、資源を循環させる豊かな社会、そして個人がやりたいことを実現できる社会をつくっていきたいという想いから掲げたミッションです。

https://jp.mercari.com/

Luup

誰もが快適に移動できる未来
日本の高齢化は日々進行しており、高齢者の移動手段の確保は大きな課題です。特に過疎化が進む地方では、人口減少に伴って路線バスやタクシーの維持が難しくなりつつあります。

LUUPは、将来的に利用者一人ひとりに合わせて適合する「電動・小型・一人乗り」のユニバーサルな車両を導入することを目指しています。
電動であれば、逆走防止や自動速度制御といった安全を守る機能を付けることが可能です。小型でなければ、街中に多く配置することができず細かい路地に入ることもできません。人口減少社会でも持続可能な交通インフラであるためには、一人乗りで運転手に頼らず移動できることも重要です。

LUUPは、高齢者も含め誰もが電動マイクロモビリティで快適に移動できる未来を実現するため、インフラづくりを続けていきます。

https://luup.sc/why/#future

とあります。
どちらもとても正しいと思いますし、そのための経営努力を日々されていると思います。
ただ、これが外側から見て、『本当にそう思っているの?』と疑われてしまうようなことをすると、当然非難されちゃいます。

経営者たるもの、常に利益を追い、事業を成長させ、株主や社員に利益を還元しないといけない、というのはもちろんそうです。

ただ、それと同時に僕らには僕らが成すべきことがあります
そのために多少の遠回りをすることになっても、ちゃんとそこにつなげる道を歩くべきだと思います。

もちろん、今回炎上した二社に対して、ただ非難したいというようなことではありませんし、二社が間違っている!というほど簡単なことでもありません。

ただ、『スタートアップ』という大きな生態系の庇護を受ける一員として、今回の出来事を軽視してはいけないと思います。

本当に経営は難しいですね。

ただそれもわかって、好きにやっていることです。
綺麗事を汚さないためにも、僕らはひたすらに頭を働かせて、必死に手と足を動かして、毎日を繋いで、未来を作っていくしかないのでしょう。


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