発注者からすると、そこまでお絵描きAIは魅力ではないという話
はじめに
こんにちわ。はじめまして。
僕はBookBaseという小説をメインに自社で制作から販売までやっているオンライン出版社を運営している経営者です。
最近、Twitterなどで瞬時にイラストをAIが生成してくれるサービスが話題で、イラストレーターさんたちが不安になっているような話が散見されます。
たしかにAIの技術発展は目を瞠るものがあるなぁと思いつつ、イラストレーターさんたちにイラストを発注する側からすると『うーん?』って感じで、これでイラスト発注のコストが下がるぞ!!とかは思わないんですよね。
ですが、この発注者側の話をあまり見かけないので、その話を書いてみようかなと思った次第です。
あと、これを読んでもらってイラストレーターさんたちに『イラストで稼ぐ』とはどういうことかって方向性を示せるといいかなと思います。
では、いきましょう。
発注者は『イラスト』だけがほしいわけではない。
まず、弊社の場合イラストを求める用途としては主に2つで
①小説の表紙イラスト
②広告やキャンペーン等の販促用イラスト
この2つです。
表紙イラストについては、業種的に限られる用途ですが、イラストをお願いする場合のほとんどは②のパターンではないかと思います。
そして、このどちらにせよ、そもそもなんでイラストを使うのかっていう話になりますが、要は『イラストは広くリーチできるから』です。
小説なんかはわかりやすくて、今は表紙絵のついたライトノベルなんて当たり前ですが、30年ほど前にはなかった文化なわけです。
しかし、小説を読む人がどんどん減ってくる中で、ジャンルを新設してイラストを全面に出すことで、新たな層を開拓したというのがライトノベルなわけです。
ただ、じゃあイラストがついていれば、それだけで売れやすいのかというとそうではなくて売れるイラストと売れないイラストというのがあります。
これはもうこれだけで語り尽くせない世界ですし、僕も表紙絵や広告イラストのディレクション責任者ではありますが、毎回頭を悩ませています。笑
ですが、『イラストであれば良い』わけでは全くないですし、さらに『上手い絵であれば売れるわけでもない』というのが、イラストやデザインの面白いところなんですよね。(ここについては後述します)
さて、そんななか、ここ数年については、イラストレーターさんがTwitterなどのSNSを活用することで自身の絵にファンをつけて、それを可視化することができるようになっています。
これが宣伝においてはとても大切なんですよね。
最近のSNSのアルゴリズムの風潮として、そもそもFF外への拡散がしにくくなっている実態があります。
なので、僕らみたいな毎回新しい作品をつくって、そこに新規のファンを作っていくというのはかなり大変です。
しかも、小説っていうものは『読まないとわからない』ものであり、最初のハードルが高いので、なかなか興味関心を引けないんですよね。
そんなときに、イラストレーターさんのお力を借りれるのはとても助かるんですね。(これもフォロワー数が多い人にお願いすればそれでいいかというとそんなことはないんですが…!)
じゃあ、ここで翻って、イラストをAIにお願いする場合。
たしかにそれなりに形のあるものは生まれます。
が、AIにファンはいないわけです。
ここが僕ら発注者がAIに魅力を感じない部分の一つなんですよね。
AIにファンが付かない理由
ファン化。
これも、なかなか奥深いテーマなので深入りはしませんが、ファンがつくというのにはいくつかの条件があるのではないかと僕は思っています。
まず、そもそもが『不完全であること』。
人というのは、はるか昔から『ストーリー』に魅了されてきた生き物です。
まだ何者でもなかった人が、日々練習をして、チャンスに挑んで認められ、大成していく。そんな人の背後にある物語に人は熱狂し、応援します。
が、AIはこの過程を省略することが、そもそもの価値であり、人間との違いです。
もちろん、不要なことを省略することは、コストを下げる意味ではとても大切です。
ですが、『ファン化』という点では、AIに人が魅力を感じないのはそのせいではないかなと思います。
あと、さらに大事なのが『可愛げ』なんですよね。
わかりやすい例だとルンバがそうです。
あのロボットは、完璧かと思いきやどこかにぶつかって止まったり、引っかかって帰ってこれなくなったり、猫に乗られたりします。
本来の用途でいえば、欠陥でしかないですが、そういうことをするところに人は可愛げを感じるというのも、一つ面白い考察ではないかと思います。
ビジネスとは熱狂を生み出すことを目的とする
さて、ちょっと話が遠回りしてきたような気もするので、軽くまとめます。
要は、僕らみたいな『何かを売る』存在というのは、日々どうすればより多くの人に自社の製品を見てもらって、興味を引けて、買うという判断をしてもらえるのを考えています。
そんななかで、イラストレーターさんが広くリーチできるイラストを描くことができ、さらにそこにファンが付いている(もしくは付くようになる)というのは、とても都合が良いことなわけです。
逆に、イラストのみをAIに出力してもらえれば、たしかにコストは下がります。けど、そこにあるのはイラストだけなわけです。
たしかにイラストのみでも、一瞬の気は引けるかもしれません。が、『ただ通行人に見てもらう』というのと、『ファンが発見する』は温度感が全く異なります。
なので、僕ら発注者としては『ファンを持ったイラストレーターさん』が多く存在するほうが都合が良いんです。
……まぁこういうことを考えていない発注者も世の中たくさんいますので、『イラスト発注しなくて良くなる!わーい!』とか呑気に考えている人もいるかもしれません。
が、そんな奴がマーケティング担当者なら、即刻辞めさせたほうが良いレベルで視座も知見も甘いです。🐧マジで。
そんな簡単に、他人の興味は引けないんです。
上手いだけのイラストに価値はない。だから、ディレクションが大事。
これは若干蛇足な話題ではありますが、冒頭に述べたように『上手いイラストであれば広告価値が高いのか』というとそんなことはないんですよね。
そもそも上手い下手というのもかなり抽象的ではあるんですが、人間不思議なもので構図や色彩はたしかに上手いし、綺麗だけど、なぜか惹かれないイラストというのがあったりします。
逆に、それより構図も色彩も上手ではないんだが、なぜか魅力に感じてしまうというのもあります。
これは本当に作品によっても、見る人によっても全く違う感想になるんですが、こと宣伝や話題になるという意味では『ただ上手いだけ』ではないイラストのほうが反響があったりします。
また、さらに踏み込むと『ディレクション(編集)』が大事というものもあります。
それこそ、ライトノベルの表紙はわかりやすくて、『本文』と『イラスト』、『ロゴ』などというバラバラのものを、どういうターゲットに向けて、そうデザインするのかというのがディレクションなんですが、これが上手いか下手かで同じイラストレーターさんを起用したとしても、広告効果は大きく変わります。
ここも語り出すと蟻地獄なので、この程度にしますが、ちゃんと広告や宣伝に携わる人間からするとAIで上手い絵が出せるということが、未だ限定的な価値にしかなっていないというのは理解してもらえたんじゃないかなと思います。ニュアンスだけでも伝わってほしいなぁ…。
まとめ
というわけで、AIお絵描きツールが実は心配されてるほど良いものでもないよって話だったんですが、まぁこう書かれてもじゃあ安心だ!となるかというと不安は拭えないんじゃないかと思います。
なにせ、今のイラストレーターさんを取り巻く環境は過酷です。
AIが無くても、お絵描きツールが充実したことでイラストへの参入は簡単になりましたし、10代や20代で始めた人が数年で神絵師と言われているなんて珍しくない世界になっています。
そんな世界で生き残るためには、述べたように『ファンを増やす』ことが良いんですが、それが一番むずかしいんじゃい!!という話でもあると思います。
Twitterで、イラスト流すのは大事なんですが、それだけでファンになるかというと足りないようにも思います。
SNSとイラストレーターさんの相性というのもあるんですが、まだまだ見てくれる人とイラストレーターさんの距離は結構遠いようにも思いますし、ここを縮めるやり方はいろいろある気がします。
そうなったときに、イラストレーターさんにファンがつくようなイベントとか企画とかを考えられるディレクターやプロデューサーがいると実はかなり効果的なんじゃないかと思ったりもするんですが……。
🐧(最近まともな発注者ほどこういう企画にイラストレーターさんを巻き込むのを避ける傾向もあるんですよねぇ。いくら宣伝になるとはいえ、手を動かしてもらった分しっかり払わないと後日炎上したりするかもしれないし、じゃあそこも踏まえてしっかりお金出せるのかというと各社予算はどんどん厳しくなっているという問題もあるので……)
作家さん、イラストレーターさん、出版社の三者がうまく手を取り合って、投資的な観点もいれつつ、クリエイティビティを発揮できるとまた違った未来もあるのではないかと思うんですが、なかなか難しい世の中でもあります。
ただ、弊社のような慣習に囚われにくい新興企業であれば、そういう新たな動きもできるんじゃないかなとは思っていますので、上手いことWinWinになれるような座組をつくりながら、やっていきたいなと思ってはいます。
🐧(ただ下手なことやると、マジで労働搾取とか言われちゃうんよねぇ…)
まぁしかし、AIについてはそこまで悲観せずに、便利なツールとして使ってもらえればいいですし、こうやって僕ら発注者側も考えていたりはするので気にせず良い作品を生み出してもらえると嬉しく思います(弊社だけだったらすみません笑)
それでは、今回はこんなところで。
ご拝読ありがとうございました!
(筆者に興味ある方は、Twitter見てください。なにか御用があればDMまでー)🐧