ショート化するコンテンツ、その流れは本物か?ーー違和感の正体とコンテンツの未来
本記事の要約
朝から話題にしてもらってるようなので、軽く読みたい人向けに要点だけまとめます。
①現在のショートドラマの投機的な盛り上がりは以前のWebtoonの盛り上がりに似ている。
②コンテンツは投機的な盛り上がり=長期的なトレンドとはいえない。
③結局は作り手が心酔できるだけ面白いと思えてるかどうかでやるべき。儲けられそう、というので目をつけるな。
以下、本記事
はじめに
ショートドラマがこれからのトレンドだ!的な話が、最近のエンタメ業界を賑わしています。
動画のショートコンテンツ化は今に始まったことではなく、手軽に見れるコンテンツとして、TikTokやYoutubeショートなど、動画プラットフォームをより広げる一助となったのは間違いないでしょう。
そして、ここに来て、実写ドラマを3分程度に短くした『ショートドラマ』に多くの企業が注目し、参入を開始しています。
日本だけ見ても、ショート映画のサブスクアプリ『SAMANSA』、ショートドラマ制作を手掛ける『ごっこ倶楽部』など、スタートアップ界隈でも名乗りを上げている企業が目立ち始めています。
上記の記事では
市場調査会社のYHリサーチは、2029年にはショートドラマの世界市場規模が8.8兆円、国内市場は2026年に1500億円に達すると予測している。BUMPはショートドラマを「従量課金制」で提供するアプリだ。2022年12月に提供を開始して以降、アプリのダウンロード数は110万件を突破、SNSに投稿している「切り抜き動画」の総再生回数は10億回を超えている。
とのことで、これからの市場として期待されています。
が、この語り口。
つい数年前にも見たことがありますね。
2020年ごろから、韓国や中国を中心とした新たな縦スクロールのマンガであるWebtoonが日本でも声高に注目され始め、様々なレポートのなかで『日本のマンガを塗り替えるほどの驚異的な成長!』などと謳われ、乗り遅れるな!とばかりに数多くの企業がスタジオを設立したり、プラットフォームを作ったりしていました。
2030年には、市場規模が4兆円になるとまで言われており、この流れは不可逆だ!とされていました。
が、この流れも今年の夏頃には流れが変わりました。
韓国発の縦読みWeb漫画『ウェブトゥーン(縦読み漫画)』が現在岐路に立たされている。韓国NAVERグループの企業で、『LINEマンガ』運営企業などを傘下に持つ「ウェブトゥーン・エンターテインメント」は2024年6月にナスダックに上場した。上場初日は株価が公募価格より10%近く上昇するなど好スタートを切ったが、8月上旬に株価は 20ドル台から12ドルに急落。10月下旬の現在も横ばいを続けている。
同社の決算資料によれば、「LINEマンガ」を筆頭に日本市場でのユーザー獲得や収益は好調であり、自社評価としては「好調」とアピールする一方、本場韓国市場が芳しくないようで、月間有料会員は前年同期の約400万人から370万人へと7.3%減少。ユーザー1人当たりの月間平均支出額も同9.9%減の8.3ドルまで落ち込んでいる。
2030年まで拡大を続ける、という話はどこにいったのか?と思わざるを得ませんが、もちろんこの流れが一過性の可能性もあり、ここからさらに盛り返していくのかもしれません。
ただ、エンタメコンテンツにおいて、一時的な盛り上がりが長期的なトレンドに結びつくということは限定的であり、声高に言われるものほど気をつけるべき、という教訓はあるということだと思います。
その上で、動画プラットフォームのショート化から、Webtoonにショートドラマなど、ここ最近の『コンテンツのショート消費』は本物なのか?を極めて主観的な観点から考えていこうと思います。
主観なので、明確なソースがあるわけではありませんので、眉に唾をつけて読んでください。
エンタメビシネスの誤った成功体験
ここ十年を振り返った際に、エンタメビジネスの潮流は主に2つあると思います。
一つは強力なIPを軸としたコンテンツ力による稼ぎビジネス、もう一つはユーザーの体験や課金システムをハックすることでユーザーの滞留や課金を促すビジネスです。
前者を例にすると、ニンテンドーや集英社のような成功例であり、後者はピッコマの『待てば無料』などに始めるアプリやYoutubeなどの動画プラットフォームにおけるレコメンドシステムなどが該当します。
どちらを軸にするかはそれこそ企業文化や歴史に紐づく意思決定にはなりますので、一概には言えませんが、ビジネスとして稼ぐことを念頭においた場合は後者の例をモデルケースとしてスタートすることが多いと思います。
なぜなら、儲かるロジックが明確であり、再現性があるように見えるからです。逆に前者のようなコンテンツビジネスは再現性を担保できず、投資するための意思決定ができないので新規事業としてスタートすることはなかなかありません。(ちなみに弊社は前者のほうでやっている珍しい企業です)
Webtoonやショートドラマにおいても、基本的なロジックは後者に由来します。制作時の設計思想がユーザーの体験から逆算的に生まれたものであって、コンテンツとして面白いものを作ることを目的に作られたものとは言い切れないからですね。
Webtoonに関しては、弊社もとあるスタジオさんと連携して制作をしようとしていた時期がありまして(それ自体は結局頓挫しましたが)、横読みのマンガとの比較も合わせて検証しましたが、やはり縦は横に比べても詰め込める情報量がとても少なく、没入感を作ることが原理的に難しい構造でした。
これは現状のWebtoonにおいて、作品としての多様性がマンガよりも生まれにくい一因ではあると思います。
ショートドラマにおいてもおそらく同じような構造はあって、コンテンツのことだけ考えれば、短く切られたものよりも1時間しっかり見させられる連ドラのほうが幅も作れますし、没入感もあります。
ただ、ユーザーにとって短いコンテンツはそれだけ視聴のハードルが低く、PVを稼ぎやすいという恩恵が大きいものとなります。
ただ、この『PVを稼ぎやすい』というの遅効性の毒のようなものになっている可能性があるのではないかと個人的には思います。
PVが稼げる=コンテンツで儲かる、ではない
コンテンツの稼ぎ方として、先程あげたコンテンツIPとしての稼ぎ方と体験をハックする稼ぎ方は全く異なったものです。
特にここ近年で顕在化したこととして、『PV数は高いが稼げないコンテンツ』というのが生まれてきている状況があります。
その顕著なものが『ショート動画』なわけですが、なぜそうなるのか。
かつて、PVが高いというのはコンテンツにおける絶対正義の一つで、それだけ視聴者数が多ければ、広告的な価値とコンテンツとしての価値、その両方が加算されていきました。
しかし、コンテンツのショート化はこの絶対正義を崩すことになります。
考えてみれば当然の話ですが、ショート化はコンテンツとしての面白さを上げることには寄与せず、ただユーザーの視聴ハードルを下げることでPV数を引き上げることができるものです。
コンテンツをちゃんと面白く見るためには、まとまった単位が必要です。それこそ小説で言えば10万字、マンガで言えば1巻、映画なら90分、というようにそれだけの時間をかけて紡がれるからこそ物語に没入させられ、そこに生きるキャラクターたちに魅了されるわけです。
では、ショート化の恩恵は誰にあるのか。
それはシンプルにプラットフォーマーです。
Webtoonで言えば、ピッコマやLINEマンガですし、動画で言えばYoutubeやTikTokですね。プラットフォームの稼ぎ方はコンテンツを作る側とは違って、ユーザーに滞留してもらい、サブスクや広告で稼ぐモデルです。
彼らにとっては、一つのコンテンツにガッツリハマってもらう必要は実はあまりなく、なんとなくアプリを開いて、ダラダラ見てもらうことでも稼げてしまうモデルを構築しています。
が、コンテンツの作り手や権利者にとってはそうではありません。
このギャップこそが、新たな歪を生む根本になっているのではないかと思います。
だからこそ、BUMPやSAMANSAは一定正しいビジネスをやっているとも言えますが、それもどこまでの成長ができるかという部分では限界はあると思います。
ユーザーから見るコンテンツのあるべき姿
コンテンツをビジネスの目線で見ると、つい制作側の視点だけで考えがちですが、重要なのはユーザー側の目線です。
冒頭で書いたように、Webtoonやショートドラマは謳われているほど市場成長率は期待できないとはいえ、一定のユーザー数を獲得できているのは事実であり、需要があるというのは間違いありません。
が、ショートドラマの先行事例としてWebtoonを見た場合の壁として、コンテンツIPにはならない可能性は考えておく必要があります。
簡単にいえば、ポケモンやジャンプマンガ的なコンテンツとして認知され、キャラクターが作品の外に出てくるような形ですね。
実際に、ショートドラマの制作をされている企業さんのなかには、あくまでもショートドラマは広告事業であり、toB事業だと割り切っている方もいました。それは正しい動きだと思います。
ただそうなると、ユーザー側として歓迎すべきコンテンツになるのか?という点で疑問になる部分もあります。
基本的に、体験や課金システムをハックすることでユーザーを滞留させる方法はユーザーにとっても主体的な時間を使い方とは言えないかもしれません。
むしろ、『推し活』という言葉が文化となったように、一つの作品やキャラクターにハマり、数年〜数十年のスパンで時間とお金を費やして楽しむコンテンツこそ主体的に楽しむことができるコンテンツになるのではないかと思います。
もちろん、この2つのコンテンツはどちらも必要なものであり、ユーザーによってグラデーションが存在し、かつユーザーの心理状態によって求められるものも異なります。
現代人において、社会的な役割をこなしながらコンテンツに没入するというのは時間的なコストを捻出しにくい問題などもあります。
ただ、主体的に楽しむコンテンツと受動的なコンテンツ、この2つにおいて商業的に持続させるためには前者を目指すことになるのではないかと思います。
グローバルに届くコンテンツとは
日本には多くのコンテンツがあります。ジャンルや媒体を問わず、これだけエンタメにおける多様性を確保した国は他に例はなく、今後もこの土壌はあり続けると思います。
そのうえで、日夜新たなエンタメビジネスが生まれていくなかで、どのようなコンテンツを生み出し、それをビジネスに変えていくのかはそれぞれの哲学にも関係する重要な問題だと思います。
また、現代において日本が抱える課題としてもグローバルで稼げる産業を作る、という観点においてもコンテンツは期待されています。
その期待に報いるためにも、グローバルで勝ち続けることができるコンテンツとはなにかを考える必要があると思います。
プラットフォームというレイヤーで日本がこれから勝つことは難しいとなれば、いかに任天堂や集英社など主体的なコンテンツを軸としたビジネスを作れるかが重要になります。
弊社もエンタメスタートアップとして、『次世代型出版社』を掲げていますが、弊社が目指すのは『主体的に楽しめるコンテンツ』であり、それを持続的に制作し挑戦し続けられる企業をつくるために日々頑張っています。
これからも日本が世界に対して存在感を出し続けられるように、新たな活路をつくっていきましょう。
追記
本記事を書いた意図についてですが、空気感として、投機的な盛り上がりだけを見て、そのコンテンツがあたかもすべてを塗り替えるような言説がいまだに蔓延ることに対して、疑問を投げかけたいというものです。
毎度、この流れに遅れたくないという理由で半端に乗り出し、クリエイターをたくさん巻き込んだ挙句に撤退するという行為は避けるべきだと思います。
コンテンツは分野問わず時間がかかります。一生をかけてやろうと思えないならそもそも手を出すべきではないので、注意喚起としてもちゃんとコンテンツ見た上でやろうねって話です。
本気でやってるなら何の文句もないです。世界に届く最強コンテンツを作っていきましょう。根気強く。