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読んでない本の書評3 「パイの物語」
竹書房文庫の上下巻で350グラム。7か月以上も太平洋を漂流していたにしては軽い。
好きな要素がたくさん入ってる。猫好きとしては、でっかい猫であるところの虎が出てくるところがぐっとくる。ヨガをやってる身としてはインドの神様の話も興味深い。食いしん坊なれば様々な外国語の料理がたくさん出てくるのもわくわくする。宗教と動物の話も興味深い。
好きな話なのだけど何度も読み始めては途中で投げ出している。なぜだろう、と思って久しぶりに取り出して下巻から読み始めたら一気に最後まで読んでしまった。少年が太平洋に放り出されてからはロビンソークルーソーばりの冒険譚がはじまって、目が離せなくなるのだ。それからだんだん意識が朦朧としてきておかしなものが見えちゃったり聞こえちゃったりしはじめる緊張感。
じゃあ下巻だけ買って読めばいいのかというと、やっぱりそうもいかない。上巻の陸の上の主人公が身につけた宗教や動物に関する知識を、下巻の海の上でどうやって現実に生きるのか、っていう話になってるのでやっぱり買ってもっておかなくては陸地に戻ってこられなくなるような気がする。
本って、とりわけ長編ともなれば書く側も最初から最後まで全部おもしろいとは思っていなくて、
「盛り上がりに欠けるところはそっちでうまくやりくりして読んでくれよ」
と思ってたりするんじゃないか(そうだといいな)。理解力と読解力が好奇心に間に合わないタイプの人類としては、下巻から読むのも、案外よかった。
ちゃんと読んでないわりにはなんだか好きな話で、「パイ」という名の香水が出てるのを知ってうっかり買ってしまったことがある。どうにもハンドリングの難しいアジア風の重い香りで、つけると猫が逃げる。