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えがおの子ウサギ

森の中にある小さな村に、いつも笑顔がすてきなうさぎの女の子が2匹暮らしていました。2匹とも素敵な笑顔。1匹はキラキラとした笑顔のルリ、もう1匹はおっとりとした笑顔のランと言います。2匹はとても仲良しです。
「ルリちゃん、今日もすてきな笑顔だねぇ。」
村の人にあいさつされるとルリはにっこり笑顔。ぴょんと飛び跳ねて「ありがとう」と返事をします。
「あら、ランちゃんもすてきな笑顔ね。」
そう言われ、ランは立ち止まって微笑み「ありがとうございます」と一礼をします。

ある日、2匹でお出かけしていると村人が見えました。
「あ!ダーシャさんだ。」
ルリは嬉しく思い、笑顔になりました。ランも
「本当だ、ダーシャさんだ。」
いつもと変わらず微笑んでいました。ダーシャと2匹は近づき、すれ違おうとしたとき、ルリが勢いよくあいさつしました。
「おはようございます!」
ランも
「おはようございます。」
と続けました。しかし、どうしたものかダーシャから返事はありません。スッと通り過ぎて行ってしまいました。

ルリは心配になり、ランに話しかけました。
「ねぇ、ダーシャさんどうしちゃったのかな?耳が悪くなっちゃったのかな?それとも、私たちのこと嫌いになっちゃったのかな…。いや、怒らせちゃった?ねぇ、ランはどう思う?」
ルリは心配で仕方がないという顔をしていました。ランはいつの通り微笑んで
「そんな日もあるよ。私たちはいつの通りすてきな笑顔だったわ。」
と答えました。
「でも、この気持ちは何なんだろう…。このモヤモヤする感じ…。」
ルリは納得できませんでした。
「ルリ、あなたは笑顔であいさつしたら喜んでくれると思っていたのではなぁい?返事がないだなんて考えもなかった。」
「え、そうね。思っていたわ。」
ルリにはランがなぜそのようなことを言うのか理解できませんでした。ランはさらに続けました。
「返事が返ってくることが好ましいことで、返事がないことが好ましくないこと、そんな風に思っていたのではなぁい?」
「え、そう思っていた気もするわ。でも、そんな風に思っているから笑顔でいるんじゃないの?相手が喜んでくれると私は嬉しいと思う。相手にとっても自分にとっても嬉しいと思うことをしないの?」
「私は自分がすることに心を込めることができたかを考えてる。あいさつをして、返事がある、ないのどちらも同じことだと思っている。」
ルリはそれを聞いてもモヤモヤしていました。

しばらく歩いていると、またダーシャさんと会いました。ランはいつも通り笑顔であいさつをします。ところがルリはうつむいてしまいました。ダーシャさんが2匹を見て
「おはよう、いいお天気だね。どちらにお出かけかい?」
と話しかけてきました。
「散歩しているのです。」
ランが答えます。
「そうかい、そうかい。気を付けて行ってらっしゃい。」

ダーシャと別れて、しばらく歩いているとルリが突然言いました。
「ダーシャさんは私のあいさつが気に入らなかったのだわ!だからさっき会った時は返事をしてくれたのよ。あいさつしたのがランだけだったから。」
ルリの目には大粒の涙が溢れんばかりにたまっていました。
「ルリ、落ち着いて。体を落ち着かせて。」
ルリは自分に何が起こっているのか分かりませんでした。でも、何となくランの言う通りに体を落ち着かせるようにしました。するとどうしたことか、不思議と涙は落ち着き、心も落ち着いていきました。でも、さっきの出来事を思い出すと涙が出そうになります。ランを見ると、いつの通りの微笑みで
「さっきのことは忘れていいの。全ては変わっていくわ。返事をしてくれなかったと勘違いしていたダーシャさんが、次に会った時には声をかけてくれてようにね。」
ルリは目をつぶり涙がほほをつたっていくのを感じました。

翌朝、2匹はまた散歩をしていました。すると向こうからダーシャさんが歩いてきます。ルリとランはすてきな笑顔であいさつをしました。


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