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書かなくなり考えなくなり

運営側から「一定期間更新がないと云々」みたいな通知が来たのでブログを閉じました。昨年の12月31日に「もう書きません」と告知してから9か月。みなさんありがとうございました。
仕事もやめ、ブログもやめ、僕はめっきり文章を書かなくなった。ものを書くことは考えることでもある。だから書かなくなるということは考えなくなること。考えなければ頭はどんどん退化していく。この数年僕は自分の頭の退化をしみじみと実感しながら、もう頭なんて使わないでいいやと思う。
あんなにも、来る日も来る日も何かに取り憑かれたように物を書いていたのはいったいなんだったんだろうな? 五感に触れる入力の全てを「書く」という行為で出力しなければ次の日が来ないような切迫感はなんだったのだろう。もう今はそれを考えることすら面倒になってしまった。

ずっとずっとずっと以前、僕は友人2人と同人誌ってものを作っていた事がある。隔月刊行でA5版100ページぐらいあったと思う。マンガじゃなくて全部文章だった。小説や、随筆や、批評や、戯曲だった。毎日仕事から帰って来ると寝るまで書きまくった。100ページのうち90ページ分ぐらいは僕ひとりで書いていたのだ。90ページの文章を埋めるのにひと月かかり、それをオンボロワープロにくっついていたオンボロドットプリンターでプリントするのに5日ぐらいかかった。インクリボンは3本か4本必要だった。プリントしたのをレイアウト用紙に切り貼りして原稿を作るのにまた5日。それを知り合いの軽印刷屋ヘ持って行き刷り上るのに一週間は待たされた。印刷屋のおっちゃんへ仕事の合間の小遣い稼ぎで頼んでいたから、安く上げるには時間で妥協しなくちゃならなかった。

おっちゃんに紙代込みで2万円払って引取った刷り本は自分で製本した。その頃僕は製本屋さんだったから、仕事が終わったあとに折って綴じて表紙で包んで、夜中までかかって100冊ぐらいが出来上がる。出来上がったら友達に渡して、新宿御苑の近くにあった同人誌専門の店へ置いてもらった。その本屋の名前はもう忘れた。今もまだあるのかなあ? あの店。
次の号が出るまで2ヶ月間置いてもらい、1冊300円の本が大抵10冊ぐらい売れた。本屋の店主に、10冊売れるなんてたいしたものだと誉められた。その頃の同人誌なんて1冊も売れないのがデフォルトだったのだ。僕は本の内容じゃなく300円だから売れたのだと思う。
当時ちゃんとした本屋に並んでいた、今で言えばサブカル系の雑誌数冊に三行広告を出したら、読んでみたいという問い合わせが結構来た。全国津々浦々に送って、刊行から1年ぐらい経った頃、定期購読と新宿の店で売れるのを合わせたら50冊くらいになった。読んでくれた人から「おもしろい」「もっとやれ」と励ましのお便りが毎月届いた。
1年半後には80冊ぐらいが捌けるようになった。でも、その頃になると僕はもう書いてプリントして印刷屋へ運んで製本してという作業がつらくなってしまったのだ。1年半の間、毎日毎日それ以外の事はほとんど手につかなった。いつもいつも、間に合わす事ばかり考えていた。毎号にかかる4万円近い自腹の経費なんて気にならなかったけれど、時間と労力の負担だけはいかんともし難かった。

だから止めた。ただ止めると云うのは定期購読をしてくれている僅かな人たちに対して失礼だと思ったから、資金不足のために休刊すると連絡した。そうしたらその人たちから全部で10万円以上の郵便小為替が届いた。僕は嬉しかったけれども、同人誌如きに人生を売り渡すほど真摯な物書きでは無かったのだ。僕は遊びたかったし、僕は眠りたかった。だから結局止めた。止めたあと数ヶ月の間に、何度か「まだ復刊しないんですか?」と手紙や電話を貰ったけれど、「えーと分かりません」ととぼけた。あの時の皆さんごめんなさい。僕はめんどくさかっただけです。
もう40年近くも前の話だ。

今日、本を作る事は容易い。パソコン一台あれば立派な本を作る事が出来る。書いたものを発表するのはもっと容易い。なんのハードルも敷居も無く、なんの費用も労力も必要無く、書いたものを書いた刹那に発表できる。たとえばブログ。たとえばこのnote。文章だけでなく写真も、絵も、音楽も、映像も載せられる。その見た目はかつての手作り同人誌とは次元の異なるクオリティ。それは多分素晴らしい事なんだろうな。だけど作ることや発表することのハードルが下がれば、自ずと作品の品質や作者の熱意も下がる。というか文字通りの玉石混淆になる。そして当然だが玉はほんの僅かで、そのほとんどはただの石ころだと思う。

僕はきっと、時代遅れな頭の持ち主です。
僕はきっと、前時代的な価値観の持ち主です。
だから僕は多くの人たちのように、
自分の書いた文章をぬけぬけと「情報発信」などとは言えないのです。
僕が書くものは140字の呟きであっても作品なんだ。

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