明暗を分けたキユーピーと味の素
キユーピーの業績下方修正
キユーピーが今期業績を下方修正しました。23年11月期の営業利益を従来計画の210億円→140億円に、売上も4540億円→4400億円に修正。もともと減益の予想でしたが、営業利益の減益幅が17.4%→33.3%に拡大する見通しです。
国内も海外も大幅減益
セグメント別に見ると市販用・業務用・海外などほぼ全てが大幅減益です。日本は値上げしにくい環境と言われているので、国内の減益は仕方ありませんが、海外も大幅減益とは驚きです。決算短信によると中国のコロナ感染拡大が理由で、まさに泣きっ面に蜂。
卵供給逼迫を理由に挙げているが・・
下方修正の理由としては「鳥インフルエンザの感染拡大による卵供給逼迫」を挙げています。キユーピーと言えばマヨネーズ、卵との繋がりが最も深い企業ですから、影響が大きいのは容易に予想できます。
しかし、キユーピーとマヨネーズの国内シェアを分けあっている味の素は、業績の下方修正どころか2期連続で最高益を更新する見込みです。決算期の違いはありますが、いったい何が明暗を分けたのでしょうか?
原材料高の価格転嫁が追いついていない
決算説明資料を見ると、原材料価格高騰で171億円のコスト増が発生し、売上総利益率を押し下げていることが分かります。
とはいえマヨネーズは2021年以降で4回も値上げしています。ところがこれだけ値上げしても、単価上昇による売上総利益押し上げ効果は11億円しかなく、原材料高をほとんど打ち返せていないのが現状です。これは原材料高に値上げが追いついていないことを意味しています。
より深刻なのは調味料の価格高騰
さてキユーピーでは下方修正の主な理由に「卵供給逼迫」を挙げていますが、決算短信によると鶏卵相場の高騰が増収に繋がっていることが書かれています。
コスト増の内訳を見ても、鶏卵は1/4を占めているに過ぎず、より深刻なのは調味料のほうです。マヨネーズやドレッシングに使われている調味料とは植物油のこと、つまり植物油の価格が下がらない限りはキユーピーの業績は回復しないということになります。
味の素好調の理由は機敏な値上げと増収効果
キユーピーがコスト増を価格転嫁しきれずに苦しいのは分かりました。では同じように影響を受けているはずの味の素はどうなのでしょうか?
2期連続で最高益更新の見込み
味の素の業績は絶好調です。上方修正を2回行い、23年3月期の事業利益(営業利益+持分法損益)は10%増益の1330億円、2期連続で最高益を更新する見込みです。決算期の違い(キユーピーは11月決算)はありますが、なぜこれほど明暗が分かれたのでしょうか?
原材料高をほぼ打ち返している
味の素は原材料高によるコスト増に対して、機敏な値上げで打ち返していることが分かります。ヘルスケアの寄与度が大きいためキユーピーと単純比較はできませんが、調味料・食品セグメントだけを見ても3Q累計で事業利益-16億円、通期では-1億円まで圧縮する見通しです。
四半期では増益に転換
前期 当期 増減益率
1Q 242→239 98.8%
2Q 208→191 91.8%
3Q 291→295 101.3%
(単位:億円)
売上が伸びている
味の素が原材料高をほぼ打ち返しているのは、値上げだけではなく売上が伸びていることが大きいようです。3Q累計では前年比で2割も増収になり、事業利益のうち662億円も寄与しています。
今期2%増収に留まる見通しのキユーピーとは対照的です。
とはいえ味の素も国内は5%増収に留まり、マヨネーズなどは「前年の巣篭もり需要の反動で減収」と決算短信に書かれているので、味の素も買い控えの影響は受けているようです。
キユーピーと味の素の違いは海外売上高比率
値上げすれば増収になるのは当たり前。しかし、日本は値上げすると消費者の買い控えによって販売数量が落ちる傾向があり、売上を維持するのは大変です。キユーピーは市販向けが減収になっているのが気になります。
最も違うのは海外売上高比率です。日本と違い海外は値上げしやすい環境にあることから増益になりやすく、賃金も上がり続けているので買い控えも起こりにくいとされています。
味の素の海外売上高比率は約6割です。米州・アジア・欧州と世界中に展開しています。決算短信にも「海外は、為替影響に加え、単価上昇、販売数量増、大幅増収」と書かれています。
一方のキユーピーは約1.5割に過ぎず、アジア地域に偏っていることが分かります。
結論として、味の素が好調な理由は機敏な値上げと海外売上高比率の高さ、キユーピーの業績が悪い理由は、後手に回った値上げと海外展開の遅れにあるということになります。