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我が子をバイリンガルにさせたい、その先は?
英語が出来ない保護者?
インターナショナルスクールで働いていたという経歴や、日本の学校との違いを話したりすると、「親が英語が出来ない生徒はいるんですか?」と聞かれることが多い。他のインターのことはわからないけど、わたしが勤務していた学校には見当たらなかった。名前を言うと「あ、あそこの学校なの?」と質問攻めされることがある。インターに興味がある人は、絶対知っている学校なのだ。ちなみにその学校のホームページは、入学案内を含めて英語でだけしか記載されていない。つまり「お子さんをうちの学校に入学させたいのであれば、英語で問題なくコミュニケーションが取れる家庭」が条件なのだ。転入学試験には保護者との面談もあって、英語が出来ないと落とされる確率が高い。
わたしは高等部の教員と関わることが多かったけど、7~8割は英語で仕事を対応していた。担当業務に、英語が出来ない日本人の保護者の通訳対応はなかったし、実際頼まれたことはない。
押し付けがちな固定観念
インターのことをあれこれ聞く人に「お子さんをインターに入れたいんですか?」と逆質問すると、ほとんどの人が「バイリンガルって、かっこいいいじゃないですか」と、ザックリとした答えが返ってくる。更に「自分が英語が苦手なんで、子供にはそういう思いをさせたくない」という親の期待が強い。
大抵そういう保護者は「英語は難しい」という固定観念を我が子に押し付けがちで、子供が日英のバイリンガルになったら、親である自分の通訳にさせて、「うちの子すごいでしょ。」と自慢してまわることが多い。
「英語は難しい」という固定観念を我が子に押し付けながら、インターに入れ日英バイリンガルにさせることが、子育てのゴールだと思っている姿に違和感を感じる。身近な大人である親からずっと「英語は難しいんだよ!」と四六時中聞いていたら、中には英語に対して苦手意識を持つ子供もいる。そして英語に興味を示さない子供もいる。英語ではなくて、フランス語やドイツ語、中国語、韓国語に興味を持つ子供もいる。インターでの学校生活に違和感を感じて、日本の学校に転校した生徒を何人も知っているわたしとしては、「子育てのゴールは、本当にそれでいいんですか?」と感じずにはいられない。
子育ての先輩たちとの出会い
アメリカにいた時もそうだし、インターで働いていた時も、「礼儀がきちんとしている。言動が落ち着いている。成績も良い」という子供の共通点として、親との関係が良いこと、そして親が自分の考えを子供に押し付けないということがあげられる。実際に保護者と話してみて子育てについて聞いてみると、「もちろん勉強は頑張って欲しい。外国語は分かった方がいい。でもね、子供と親は全く別の人格だから、親の考えを押し付けるものではないと思っている。アドバイスやサポートはするけど、子供には子供の人生がある。自分で考えて行動する人間であってほしい」という答えが必ずと言っていいほど返ってきた。
子供がやりたいことや興味があることは、親と違うことはよくある。むしろ違うことで、自分の視野が広がっている。親と子は別の人格。子供自身が自分の人生を切り開いていけばいい。
この姿勢にとても感動した。我が子に期待する親の気持ちは理解出来る。でも親の期待を押し付けることは、子供にとってマイナスになってしまう。
思春期真っ盛りの我が息子が生まれる前に数多くの親子を見てきたこと、そしてバックグランドが違っても、子供という別人格に対する理解とサポートを実践していた人生の先輩たちに出会えたことは、今のわたしにとって財産になっている。
インターに入れてバイリンガルにさせたい、じゃその先は?
「お子さんをインターに入れて、バイリンガルになった後のことって、どういったお考えですか?」
バイリンガルに熱意を持っている保護者にこの質問をすると、大体「え?」という反応が返ってくる。
「インターに通わせて、バイリンガルにさせたい、それで終わりなんですか?大学進学は海外をご希望されているんですか?仮に海外の大学に行っても、莫大な学費がかかりますよ。そのあと海外で就職して欲しいと考えても、永住権が無いとキビシイですよ」と伝えると、大体の保護者は「そこまで考えていなかった」とうろたえてる。
インターの高校を卒業したら、大学進学が待っている。仮に、アメリカの大学に進学希望だとしよう。いくら子供がネイティブレベルで英語が出来てもアメリカ国籍がなかったり永住権がないと留学生扱いなので、「ウソでしょ?」といわんばかり学費やら寮費やらを払わないといけない。
金銭的な余裕があって大学でのすべての費用を賄えたとしても、就活で「あなたが優秀なのはわかるけど、うちは新卒に就業ビザは出さない。アメリカ国籍じゃないし永住権がないから、申し訳ないけど採用しません」と、書類選考でバッサリ落とされたケースを聞いたこともある。
「子育てに正解はない」という言葉をよく聞く。バイリンガルにさせたいという親の期待でインターに入れることが正解なのか、子供という別人格を理解して他の進路を選ぶことが正解なのか。見極めることは難しい。個人的には、親として子供自身が納得する人生を送れるように導くことが大事だと思っている。