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北京入院物語(93)

 この時期おとなしい包さんは何も言わず、ただただ走り去るタクシーに何度も手を上げていましたが、内心「勘弁してよ」と思っていたことと思います。

 包さんはとうとう「ここでは無理だから移動しよう」と車椅子を押して、北京西駅からすこしづつ離れ始めました。
タクシーを待つ人はいなくなりましたが、通り過ぎるタクシーもまばらとなり、いずれも客を乗せています。
空車のタクシーは説明したとおり私を見て走り去り、どうも停まってくれそうにありません。

 だんだん駅から遠くなり、1kmは離れたでしょうか?
とうとう包さんは朝食を取ろうと言うと、道端で開いている屋台で中国式クレープとでもいうものを食べることにしました。
この身も心も冷え切った時に食べた朝食は今も覚えています。


 ラッシュアワーも過ぎたころになって、やっとタクシーが停まってくれ二人はまるで、雪山で遭難救助隊に助けられたようにして病院に戻ったのです。
病院に戻ると、運悪く主治医の華先生とばったり鉢合わせです。
こういうとき、言わなくてもいいことをつい言ってしまうものです。
遅く帰って来て、奥さんに「後輩の山田君が急に話があるって言うんだから参ったよ」などというのは、自ら自白しているようなものです。

 まさか、旅行に行っていたとは言いませんでしたが、いささか動転したせいで「風邪を引いた、熱がある」と口を滑らせてしまいました。
 華先生は渋い顔をし、以降入院中の長期外泊は禁止となってしまいました。

 まぁ・・・入院中に外泊して観光旅行に行くほうがどうかしているという意見は、正解そのものです。
ただ、私はそのために入院したと皆さんには告白していますので、当たり前のことをしたまでであって、風邪を引いたのが運が悪かっただけです。(多分)
北京入院物語(94)


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