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台風と数値予報
こんばんは、nooooon(@nooooon_met)です。
台風第10号について、先週まるまる出張ということで、なかなか振り返る(まとめる)機会がありませんでしたが、一昨日、NHKによる記事が掲載されていました。
この記事の中で、下記のような記述がありました。
台風10号がまだ発生していない8月31日。このツイートが投稿され、瞬く間に拡散された。添付されていたのは、ヨーロッパとアメリカの気象当局の予測結果の画像。台風襲来の1週間も前、気象庁の公式見解も無い時期に、伊勢湾台風級の台風が西日本を直撃するというシナリオが示されたのだ。
私はこの記述のなかで言及されているツイートをリアルタイムで目にしていて、いわゆるバズっている状況なのを、複雑な心境で受け止めていました。
台風第10号は過ぎ去ったということで、「予測」と「結果」を踏まえて振り返りたいと思います。
1.数値予報とは
振り返りを行う前に、まず「数値予報」というものについて解説したいと思います。NHKの記事では、このような記述がありました。
添付されていたのは、ヨーロッパとアメリカの気象当局の予測結果の画像。
個人的には、この文章に少し違和感を感じます。添付されていた画像は、「気象当局が予測した結果」というより、「気象当局が運用するコンピュータが予測した結果」、すなわち「数値予報の結果」だからです。
数値予報とは、簡単に言えば、コンピュータのなかに地球を作り、物理学の方程式を利用して、その地球でどのように天気が変化していくのかを計算する・・・というものです。
数値予報にもいろいろな種類(数値予報モデル)があり、さまざまな国で異なるモデルが作られ、使用されています。ここで「異なる」というのは、「コンピュータのなかでの処理方法」(※)や「地形の表現」などのいろんな点が挙げられ、その差によって、モデルによって数値予報結果に違いが産まれます。
※気象現象を100%そのまま物理学の方程式で表現することは難しいので、それらしく表現できるよう、いろいろ工夫されているのです(研究者のみなさんは、どうすればうまく表現できるようになるのかを追及されています。すごいです)。
日本の気象庁でも多くのモデルが運用されています。
「1つあればいいじゃん」とか、「2km毎とかじゃなくて、もっと細かく予想しろよ」という意見があると思いますが、そう簡単に実現できるものではありません(その理由の解説は、ここでは省きます)。
数値予報の結果は天気予報の基礎となる情報となっており、台風の進路等を予測するうえでも重要な情報になっています。
2.「各国の数値予報結果」と「実際の経路」
NHKの記事ではこのような記述もあります。
投稿された海外の予測結果は、実はインターネットで検索すれば誰でも見ることができる。
私も海外気象機関のモデルによる予報結果を見られるサイトをいくつか知っており、今回の台風第10号の際は、予報結果がどのように変化していくのかを追っかけてみました。
追っかけたのは、9月6日21時(日本時間)を対象とした予報結果です。
まず、実際にどのあたりへ台風がやってきたのか、気象庁による解析結果を見てみます。
※1
次に、海外のモデルによる予報結果を。
それぞれの天気図の上部に「FT=〇」や「T=〇」のように書かれていますが、これは「何時間後を予報しているのか」を表します。どの図も9月6日21時を予報した図なので、「FT=〇」の数字が大きいほど古い予報であることを表しています。だいたい5日 or 6日前からの予報結果を示しています。
・欧州
※2
144時間前の予報だと、豊後水道のあたりに位置する予報となっていました。実際とは大きく異なります。
・米国
※3
進み具合に多少バラつきがあります。
・ドイツ
※4
九州の西海上を進む傾向にはあまり変わりが無さそうですが、進み具合にはなかなかのバラつきが見られます。
・カナダ
※5
こちらはかなりのばバラつきが見られるように思います。
日本(気象庁)のモデルについては割愛します・・・(画像を準備できていないので)。
さまざまなモデルによる予報結果を見てきましたが、「予報結果は変化する」ということが分かったのではないかと思います。そして、「あまりに先のことになると、かなり予報が変化してしまうことがある」ということも、なんとなく感じられたのではないでしょうか。
特に台風の場合、どこを進むかによって風や波、潮位の変化が大きく異なってきます。
ということで、話題となっていたツイートを見たとき、「まだまだ変わる可能性がある(不確実性が高い)予報結果を広めることは、リスクを伴うことだ」と感じていたのでした。
とあるバズったツイートを見たからといって、その先のツイートを見るとは限らないので、断片的にしかに情報が伝わらないかも知れません。
ツイートに載せられた画像を見て、「あ、自分の住んでるところには近づいて来なさそうだな」と感じてたけど、そのあと予想が変わってしまう・・・ということが十分に考えられますし。
一方で、実際とは異なる経路を通ることになったとはいえ、台風が近づいてくるだいぶ前からその存在を知ることができた・・・早めに備えることができた人や、「どうやらヤバい台風が来るらしい」と関心を持った人も居たかもしれないので、その面では良かったのか、とも。
メリット・デメリットはいろいろとあって、一概には言えないのでしょう。ただ、(不確実性が高い段階で数値予報を基に)「ヤバいのが来るみたい」と伝える→(予報が変わって)「なんだ、大したことないじゃん」となる・・・ということが続くとオオカミ少年的なことになってしまうんじゃないかという危惧はあります。
3.気象庁が発表した情報について
日本で主に防災気象情報の発表を担っているのは気象庁です。
ということで、気象庁の対応はどうだったのかを振り返ると・・・9月2日からは、報道発表や公式Twitterでの投稿を連日行っていました。
【報道発表】(R2.9.2)台風第10号の今後の見通しについて報道発表しました。台風第10号は今後特別警報級の勢力まで発達して週末にかけて奄美地方から西日本に接近・上陸するおそれがあります。最大級の警戒をして、週末を迎える前に台風への備えを完了しましょう。https://t.co/qnaQMVjy7H
— 気象庁 (@JMA_kishou) September 2, 2020
また、9月1日21時の発生後は台風情報が発表されており、1日~5日先のの予報が、その前の(24時間以内に台風に発達すると予想される)熱帯低気圧の段階では「発達する熱帯低気圧」の情報が発表され、1日先までの予報を発表していました。
一般的に目にされやすい、ニュースなどで取り上げれやすい情報は以上だと思うのですが、それ以前にも、台風の影響を示唆する情報が発表されていました。
ひとつ目は、『早期注意情報(警報級の可能性)』。5日先までの警報発表の可能性を示す情報です。
9月1日17時の段階で、四国地方~三重県を対象に、6日の暴風についての警報級の可能性「中」が発表されていたのです。
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また、翌日の9月2日11時の段階では、九州地方において、6日の暴風についての警報級の可能性「中」が発表されていました。逆に、三重県では「中」が付かなくなりました。
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あまりメジャーではないような気がするこの情報、台風に限らず発表されてます。もっと広まってほしいところです。
もうひとつの情報、『週間天気予報解説資料』。こちらには、気象庁が毎日11時に発表している週間予報を作成するにあたっての考え方(予報資料をどう見たか)などが書かれています。
例えば、8月31日の情報ではこのように・・・
熱帯じょう乱を予想しているものもあるが、まだ不確実性がかなり高い。今後の資料に留意。
(※13)
9月1日の情報ではこのように書かれていました。
日本の南を熱帯じょう乱が北上する予想が明瞭となった。
(※14)
こちらの情報は専門性が高いのですが、気象予報士の方や、防災に関わる人にはとても役にたつ資料だと思います。
長くなりました。書きたいことはまだある・・・あったような気がするんですが、とりあえずひと区切りにします。また明日から出張なので、さっさと寝ます。
そんな、今日このごろ
※
1:画像は気象庁HPから→http://www.jma.go.jp/jp/typh/
2:画像はweather-models.infoから→https://weather-models.info/latest/ecmwf.html
3:画像はweather-models.infoから→https://weather-models.info/latest/gfs.html
4:画像はweather-models.infoから→https://weather-models.info/latest/icon.html
5:画像はweather-models.infoから→https://weather-models.info/latest/cmc.html
6:画像はFEFE19から。
7:画像は気象庁HPから。令和2年9月1日17時00分 鹿児島地方気象台発表→http://www.jma.go.jp/jp/warn/f_4620100.html
8:画像は気象庁HPから。令和2年9月1日17時00分 高知地方気象台発表→http://www.jma.go.jp/jp/warn/f_3920100.html
9:画像は気象庁HPから。令和2年9月1日19時00分 津地方気象台発表→http://www.jma.go.jp/jp/warn/f_2420100.html
10:画像は気象庁HPから。令和2年9月2日11時00分 鹿児島地方気象台発表→http://www.jma.go.jp/jp/warn/f_4620100.html
11:画像は気象庁HPから。令和2年9月1日11時00分 高知地方気象台発表→http://www.jma.go.jp/jp/warn/f_3920100.html
12:画像は気象庁HPから。令和2年9月1日11時00分 津地方気象台発表→http://www.jma.go.jp/jp/warn/f_2420100.html
13:気象庁HPから。2020年8月31日10時00分 気象庁予報部発表→https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/data/jishin/kaisetsu_shukan_latest.pdf
14:気象庁HPから。2020年9月1日10時00分 気象庁予報部発表→https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/data/jishin/kaisetsu_shukan_latest.pdf