灰色に見える世界
その日、私は私と入れ替わったのかもしれない。
6歳位の頃、家の近所をひとりあるき回るのが好きだった。意味もなく、あてもなく。ただ気の向くままに。
うちの近所は山の中の田舎。周回コースみたいな形をしていて、子供の足で3,40分で一周できる。
ぐるっと回って、家まであと50m。鳴き声に気づいて後ろを向くと、そこには灰色の猫。
猫は道の真ん中にスッと腰をおろしてこちらを見てる。きれいな毛並み。しなやかな背筋。目はきれいな青。 3mくらい離れているだろうか。それでも子供ながらに見とれてしまうほどきれいな猫だ。
その青い目はとても綺麗だった。なんだ目を離してはいけないような感じがした。吸い込まれるような、宝石のような青。多分当時初めて見るきれいな色だった。
そして、猫が鳴いた。長めに、優しく、私を愛でるような優しい鳴き声で。
猫が鳴いたら、周りの景色も灰色になっていた。猫と同じきれいな灰色。シャープなんだけど、モノクロではない。きれいな灰色に。
猫の目だけがきれいに青く輝いていて。それ以外は灰色。
吸い込まれるような世界。不思議と怖くはなく。優しさと虚無の間のような世界。
猫が鳴いた。こんどはシャープに短く。怒っているわけではないけど、なにか呼んでいるような、注意しているような。
少し驚いて瞬きすると、そこには何もいなかった。
猫も灰色の景色も。ただいつもの道が目の前にあるだけ。
私は何も考えず、家へ帰った。
ただいまと玄関に入ると、おかえりと家族のいつもの声。
ただ、なぜかその日から日常の当たり前のことが、とても新鮮に感じた。
そして、時々自分のことが見える時がある。