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カロクリサイクル「記録から表現をつくる2024」レポート【後編】

執筆者:関優花(美術作家)

 「記録から表現をつくる2024」の参加者たちは、全4日のワークショップを通じてどのような経験をしたのでしょうか。レポートの後編では、ワークショップの最終発表会向けた準備期間と発表会当日の様子をお伝えします。

それぞれの探究を掘り下げる

 これまでの二回のワークショップを通じて、参加者たちはさまざまな「記録から表現をつくる」実例を学んできました。そしてここからは最終日の発表に向けて、各自のリサーチを深める段階へと進みます。8月中旬に行われたワークショップ第三日目は、相談日として設けられ、参加者は3つのグループに分かれ、ファシリテーターやNOOKメンバーと順番に面談を行いました。お盆期間中ということもあってか、親族が遺したものや地元の風景に着目する参加者が多い様子。それぞれの興味関心や進捗を共有しました。

 相談日で印象的だったのは、最終的な成果物の形について議論するよりも、どのように記録を集めていくかという具体的な方法が相談の中心となっていた点です。たとえば、いきなり道行く人にインタビューをお願いすると警戒されてしまう場合がありますが、カメラを携えているだけでも、なんとなくこちら側の目的が相手に伝わり、お話をうかがいやすくなったりすることがあるそうです。このワークショップは、完成された作品をつくることを目指す場ではなく、記録を通じて対象と向き合うことを試みる試行錯誤の場であることを、改めて認識させられる時間となりました。

相談日の様子

 また、発表会の前日には、参加者がファシリテーターやNOOKメンバーと協力し、自分の成果物をどのように見せるかを考えながら展示の設営を行いました。記録が見る人にどのように伝わるかを意識しながら、ものを配置し、展示会場を協働で作っていきます。

 そうして、約2か月間にわたって行われたワークショップもいよいよ最終日になりました。鑑賞の時間を経て、ひとりひとりが自身の作品について発表していきます。

鑑賞中の様子

 参加者たちの表現には、さまざまなアプローチが見られました。祖父を主題にした創作や、マレーシアでの太平洋戦争の歴史のリサーチ報告、外国人としての視点で団地や土地の歴史を扱った作品。また、祖父の手記を基に関係性を捉え直そうとする試みや、自分の住む地区の写真を地図と重ねたもの、さらには能登半島地震の被災地の記録映像など、多岐にわたる表現が共有されました。ひとつひとつの作品に瀬尾さんと小屋さんが丁寧なフィードバックを送ります。

 印象的だったのは、参加者たちがお互いの表現をじっくりと鑑賞し、コメントをし合う様子が見られたことです。それぞれの興味関心がゆるやかにつながって、ある対象についてともに考えていくための協働が始まっているように感じました。発表後の歓談の場では、能登半島地震の被災地域に赴き、リサーチとボランティアへいこうというグループも現れ始めます。異なる事象同士が表現を通じてつながっていく、記録と表現のサイクルがここでも動き始めているようでした。
 今回のワークショップで驚いたのは、作品制作の経験がない参加者も多い中で、それぞれが自分のバックグラウンドや経験に基づき、対象との関わり方を見つけ、自分だけの視点で表現を作り上げた点です。表現の技術の有無に関係なく、対象に向き合う志が記録の出発点となり、それがやがて表現に発展していく過程を感じられました。これからも参加者たちが相互に影響し合いながら、それぞれの探究を深め、記録と表現を続けていくことが期待されます。

 2025年2月から5月にかけて、これまでの「記録から表現をつくる」の参加者有志による二つの展覧会が開催されます。それぞれのリサーチがどのように行われ、表現へと発展させたのか、その成果を見ることができる機会です。ぜひご覧ください!
 ひとつ目の展覧会情報は、以下のリンクよりアクセス可能です。

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