【Vol.4】ヒトはなぜ笑うのか?:ツッコミがお笑いを面白くする理由
ヒトはなぜ笑うのか?
前回の「不調和理論・不調和解決理論」では、不調和である異なるイメージや概念(スキーマともいう)を、同時に思考の中で活性化されることで、人間はユーモアを感じるという理論をご紹介してきた。
しかし、異なるイメージや矛盾する概念を同時にイメージすることは難しく、そこにはある種の”つながり”があることで、よりユーモアを感じやすくなる。(一方で、シュールな笑いではそのつながりもない状態もありうるが…)。
つまり、「不調和」を知覚することがユーモアを認知するメカニズムの根源なのである。
漫才やコント、バラエティなどでも、フリとオチによって巧妙な不調和が仕込まれている。
ケース①:サンドイッチマン「薬局」
例としてサンドイッチマンの「薬局」のコントの一節を引用する。
客(伊達):「風邪薬探してて。今日、かみさんが熱出して寝てるんだよ」
店員(富沢):「かみさんがケツだして寝てる…?」
客(伊達):「ケツだして寝てるわけないだろ!どんな淫乱だよ!」
まず客の会話が一つ目のイメージを想起させる(妻が発熱で寝込んでいるイメージ)。その後、店員の聞き間違いで別のイメージが想起される(おしりを出して寝ている姿)。その2つのイメージは全くの別物だが、熱(netsu)とケツ(ketsu)の語感の近さから、不調和につながりが生まれ、思考の中で同時に活性化されるのである。
そして最後に客のツッコミが入り、2つのイメージがどれだけかけ離れたものであるかを強調され、思考の中に活性化されるのである。
極端なキャラクター設定のないサンドイッチマンのコントでは、聞き間違いや勘違いなどスタンダードな世界観から絶妙な不調和を繊細に繰り出し、伊達の強面なツッコミでその差異を強調させるシーンがいくつも見られる。
ケース②:ナイツ「カラオケ」
ナイツの漫才でも、特にツッコミの存在が不調和を際立たせていることが伺える。
塙:カラオケに行っても今の曲がよくわからなくて、「ミドリ―ン」ってしってますか?
土屋:Greeenね。勝手に和訳しないでください。
塙:全員歯科大学の学生らしくてね。去年だした「シセキ」って曲がね…
土屋:「キセキ」ね。歯科大学で「歯石」はダサすぎるだろ!
ナイツの漫才ではまず初めにボケ単体で提示される。しかしそれだけでは何の話をしていいるのかよくわからない、一見すると完全な不調和に思われるが、ツッコミによって不調和に繋がりがあったことを気付かされる。
上記の一説でもナイツの漫才では、ツッコミが「不調和の解決」の役割を強く押し出している。まるで謎かけの答え合わせをする様に、不調和だった2つの思考が提示されると同時に解決され、ユーモアが強く感じられるのである。
ツッコミは「笑いの手がかり」
いずれにしても、ツッコミは笑いの根幹となるボケを強調し、不調和をお客さんの思考の中で活性化させる役割を果たしている。
お笑いはネタが進行する中で、一般的な常識との不調和から、ボケにボケをかぶせるなどそれまでの流れから逸脱した不調和など、非常に複雑化していく。その中で「ツッコミ」の存在はより複雑化したユーモアのメカニズムを直観的に認知させてくれる手がかりにもなるのだ。
異なる二つの考えが思考の中で思い浮かぶことでユーモアを感じる。
しかし、不調和には「面白い(Interesting)」と「可笑しい(Funny)」の違いが存在するとも思われる。そこには、緊張感の差が不調和には存在していると考えられる。
次号ではそこに深堀をしていく。