CUT

美容室に来ている。
正直に打ち明けると美容室が苦手だ。
というのも、コミュ障ゆえ美容師さんとおしゃべりするあの時間がつらい。
カットなら1時間もしないのでまだ耐えられるが、ブリーチにカラーまでするとなると2時間半。長くて3時間くらい。
見ず知らずの美容師さんとおしゃべりしなければならない。ぐぬぬぬ。

さすがに35年も生きていれば慣れるもので、いまではどうにか会話もできる。
しかし、思春期真っ盛りの根暗のぼくにとっては美容室はハードルが高かった。
というか、いまでは男の子が美容室にいくのが当たり前だけど、中高生だった当時(00年代)はまだ男の子は床屋、女の子は美容室という考えが浸透していて、美容室に行くことすら恥ずかしかった。

じゃあ、なぜ美容室に行くのかと問われたら、懇意にしていた床屋さんが無くなったから。
否応がなく、お母さんが通っていた美容室へ行くことになった…というのが経緯である。うむむむ。

はじめて美容室に行ったのはたぶん高校生のころだったと思う。
ちょっとは異性を意識したり、モテたいと誰しもが考えるように、ぼくもモテたかった。
だもんで、勇気を出して美容室を予約したことをおぼえている。

当時はジャニーズ全盛期。
髪の毛を立たせるツンツンヘアーが流行っていたので、「ざっくりカッコよく」なんてお願いしたのかしら。
ドキドキしながら、美容師のお兄さんに切ってもらったのだけど、たまたま趣味があって漫画の話(松本大洋)をしたことを鮮明におぼえている。
で、肝心の仕上がりはばっちり。
ワックスでセットもしてもらって、「こりゃイケてるな」と自画自賛してみたけれど、翌朝自分でセットしたら全然うまくいかない。
仕舞いにはクラスメイトの女の子に「寝ぐせ?」と言われる始末。
思わず心のなかで「ぐぬぬぬ」と唸ったのはいうまでもない。

で、それから×2。
先のお兄さんにしばらく切ってもらっていたのだけど、美容師業界って動きがあるもので、ある日突然「ごめんね、今月でお店辞めるんだ。もっと都会で働いて勉強したくって」なんて言われたのが、ちょうど高校を卒業するころ。
「まさか専属の美容師さんがいなくなることがあるなんて」と驚いたし、困り果てたぼくはその後、こじんまりした美容室に通うのだけど、しばらくすると専属の美容師さんがまた「ごめんね…」と自分の元から去っていくことを何度か経験することになる。

"ぼくの担当美容師さんは必ず辞める"。
なんて、ジンクスを当時抱えていたものだ。
だもんで、美容室を探すのすらめんどうくさくなって、パートナーにずっと切ってもらっていた。
美容室代も節約できるし、わずらわしい会話もする必要ないし一石二鳥だ。
ラッキー。

ってな風に過ごしていたが、数年前に幼馴染が晴れて美容師として、デビューしたので改めて通い出した次第である。
そこなら心置きなく過ごせるし、若いアシスタントの子たちとおしゃべりするのも新鮮だし、いい刺激になっている。
いくらコミュ障を謳っていても、ひとって成長するのですねー。
時間って、慣れってすごい。うむむむむ。

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