日本の都市の古き佳き場所は、一叢の木立とともに残っている。 新幹線の車窓から見る近江平野が面白い。伝統的な家が連なる集落にはその中に必ずひときわ高くそびえる流麗な屋根を持つ寺が見える。それに対して、田野の中には島のような小さな森に覆われて神社が佇んでいる。 仏と神。日本社会の中で、人々の意識や生活の面での役割とかそれぞれの位置づけの違いが、新幹線の車窓という少し離れたところから俯瞰して見ると、ランドスケープとして理解できる。 しばらくすると、新幹線は大河をいくつか渡り、ほどな
毎日のように自転車で通っている里山の小さな峠へと続く野趣のある旧道。数年前、その道べりの斜面に一叢、なぜかその場所だけに、萩に似た少し洋種の表情の低木が枝を伸ばしているのに気が付いた。枝先にはミニチュアのユリのような形の可憐な花が集まってついている。さっそく植物名検索アプリを使ってみたが、どうも要領を得ない。そのころ詠んだ歌に「山ぎわの崖地に生ゆる灌木の小さき花の名をしらまほし」とある。ここでしかお目にかかれないし、アプリも手を焼くとなれば、誰かが持ち込んだよほどの珍種なのだ
ヘッダーにも使った写真の風景は、2019年10月のある日、瀬戸内国際芸術祭で訪れた小豆島からフェリーで新岡山港への帰途、四国方面を振り返って撮ったもの。シンメトリー的でちょっと不気味な気配もある素敵な形の島影が、夕暮れが迫る柔らかく優しい光に覆われた穏やかな瀬戸内海に楽しいニュアンスを与えていた。やがてもっと薄暗くなる頃、この島の山腹から無数のコウモリが続々と、そして最後に巨大コウモリが飛び出てくるかも… 島の名は小豊島(おでしま)。どちらも瀬戸芸の会場として賑わう小豆島と豊