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ピアノが神経系を活性化させている。なぜ目を瞑ったままでもピアノが弾けるのか。

大人になってピアノを再開してみたが、普段中枢神経系の疾患を多く治療している身として経験的に再発見したことがある。

ピアノは基本的に10本の指で88ある鍵盤をさまざまに押さえて曲を弾く。
したがってこの10本の指を自分の意志通りに動かさないといけない。

脳には局在があるが、指を思い通り動かすには大脳皮質の運動野と呼ばれる部分からの指令による。つまり親指を動かそう、中指を動かそうと思えばそういう命令が運動野から出るから指がその通り動くのである。

これは指の随意運動である。

鍵盤をただ押さえるだけなら多くの情報は必要ないが、曲を弾こうと思うと普通は練習の際、まず楽譜を読むことになる。

どの指でどんな風に鍵盤を押さえるかの情報が必要になるのだ。

これは五線紙上に書かれたオタマジャクシを読みとる力が必要だ。視覚情報に加え、その情報を統合処理しなくてはならない。それぞれの音符はどの音を表しているのか?ト音記号とヘ音記号による違いもある(五線紙の同じ位置に書かれた音符も前についているのがト音記号なのかヘ音記号なのかで、表す音が違う)。

高次脳機能と一言で括るにはあまりにも乱暴だけど、括っておく。

そして、その楽譜が表してる通りに指を動かしていけばピアノが弾けるということになるのだけれど、これが非常に難しい。

まず左右10本の指を独立して動かすことが難しい。

例えば左右の親指だけを同時に動かすのは比較的簡単だ。人差し指も小指もまぁいけるだろう。

が、薬指は独立して動かすのがとくに大変な指。

試しに5本の指全部を机に置いて薬指だけを動かしてみよう。こんなにも持ち上げるのが大変なのかと実感する。

ピアノを弾く際、10本の指はバラバラに動く。
この動きをコントロールするには大脳皮質からの指令が細かく指先まで伝わることが必要になる。

これだけでも凄い!


さてさて。


ピアノを弾く際、隣あってる音を弾くフレーズもあるが大きく離れた音を奏でることの方が多い。

奏者は目で鍵盤を追い、指をそこに持っていくわけではない(そういうことも、もちろんある!)
その都度楽譜を読み、鍵盤の位置を確かめ、指を動かしているわけではない。

練習の初めにはいちいち楽譜を確認し、鍵盤を確認して音を出すが、練習を重ねると楽譜をじっと眺めずとも出したい音のところまで指を自然に動かすことができるようになる。

これは感覚神経、とくに固有受容感覚(深部感覚:運動覚、位置覚からなる)と言われる感覚系の働きによるものだ。

ピアノを再開してみて、この固有受容感覚がこんなに働いているのかと改めて驚いた。

一流のピアニストが演奏している姿を見たことがある人も多いだろうが、彼らは鍵盤を真っ直ぐに見つめてはいない。むしろ、軽く目を瞑ったり、時には首を振ったりしながら弾いている。

盲目のピアニスト 辻井伸行氏


視覚情報がなくても固有受容感覚情報と大脳皮質からの指令が機能すれば、それだけでピアノが弾ける。

彼らの脳内にはピアノと自分の位置関係がすっかり記憶されているため、押さえたい鍵盤まで躊躇わずに指を持っていくことができるのだ。

これには相当量の練習が必要だけど、恐らく一度身についてしまえばいわゆる体が覚えているという状態になるのだと思う。

近くの音はさほど間違わずに鳴らせるが、離れた音をミスタッチなく弾けるというのは本当に凄いこと。

ピアノを弾くというのはそれだけで感覚系をこんなにも賦活するということをここ1か月で改めて感じた。

ピアノと神経系の話はまだまだ出てくるが、あまり書くとくどいので次回に書くことにする。


今日も最後までお読みくださり、ありがとうございました🎹



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