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逢坂の鰻

ミミズ

一昨日、隠岐出身のおばちゃんがやってるという南森町の居酒屋に行く。地下にある昭和物のドラマに出てくるような古びた居酒屋。入ると、釣りの話題で盛り上がっている。
「最近大阪城公園でミミズがとれんくなった。枯れ葉の下の穴に気づかんでハマったアホが市にクレームいれたさかい、枯れ葉を全部撤去してもうたんですわ。」
どうやら餌となるミミズが、コンクリート化、枯れ葉撤去、酷暑の関係で、地表に出なくなった、出ても死んでしまうという状況らしく、買わないと調達できないらしい。

話題はうなぎ釣りに。
「大川あたりじゃこんくらいのうなぎが取れるんですよ」
とおっちゃんが腕を広げてみせる。お店の構造上、僕も自然に会話の輪に入れていたので聞いてみる。
「次はいつ行くんです?」
「明日の6時半以降かな」
「ほんなら僕も行っていいです?」
「ええで!渡辺橋の下流あたりにおるはずや」
電話番号を交換しておっちゃんは帰っていった。

ウナギ

次の日、夕方5時頃釣具を買いにいく。西日がこの時間にきついということは、涼しさが少し近づいているのかと楽観視しながら、ミミズが出れば一瞬で干からびそうな梅田のコンクリートを歩く。

おっちゃんに言われたとおり、百均で竿を買い、ビックカメラの上階にあるぶんぶんなんちゃらとかいう釣具屋で餌としかけを購入。

6時半頃、渡辺橋あたりに行ったが、見回しても釣りができそうなところはない。
ウロウロと下流下流へ歩き、NTTあたりまで来たとき、絶対ここじゃないと思ったのでおっちゃんに電話。
「おお!なんば橋おりますわ」
全然逆だった。渡辺橋の上流も上流。大阪にいると、ときどきこの適当さにつかまされる。

「ずいぶんおそかったなぁ!」
すっかりとっぷり日も暮れて、僕は謝りながら諸々購入品を披露。おっちゃんに手取り足取り教えてもらいながら竿を降る。
そういえば、隠岐にいた頃はほとんど釣りはしてこなかった。岸壁にずっと立って、釣れても釣れなくても後片付けが面倒なので理解できなかった。
うなぎは待ちの釣りらしく、セットしたらほぼ竿も離して話にいそしむ。頭上の高速を通る車のリズムに合わせて、ぽつりぽつりと話題も時間も進んでいく。

今日は釣れへんな〜と話していたところ、僕の百均の釣り竿揺れる。
「焦らんと巻け、一回引いてまた巻け」
おっちゃんたちがなんやかんや言ってくる中リールを回す。やがて水面に白いとぐろが写った。
「がっはっは!ホンマに釣れたわ。立派なもんや!」
「にーちゃんええビギナーズラック引いたのう!」
デート中のカップルたちもわらわらよってきたので、なぜかおっちゃんたちが「うなぎやで?持って帰るか?」と女の子たちに自慢している。

そこからはてんやわんや。
「にーちゃん、今日俺釣れへんかったから氷持ってき!」「袋ある?俺の使えや!」「帰ったらな、塩降って滑りとって、アイスピックで頭刺すんやで」
みんな一匹も釣れなかったのになんか喜んでいいた。

ドロミ

10時に終わり。家に帰って調理開始。うなぎは内臓が小さく、そこまで生臭さは感じないが、代わりに土のにおいが強い。なので塩を振ってぬめりをとり、背中からさばいで中骨を取ったあと湯引きをして、しょうゆ・みりん・酒で作ったタレに少しつける。少し焼いたらまたタレにつけるを繰り返す。

日が変わるころ、ようやく蒲焼きとしての姿になったので食べる。
まだ泥臭い。調べれば、まだまだ臭み消しの方法はあるようなので改善の余地あり。

深夜テンションのまま、ニホンウナギの絶滅危惧の原因や、大阪でやっている川や山の環境保全の活動について調べてみる。人間の生物としての排水が無くなったことで、用心深いうなぎはキレイすぎる川には来なくなっているというのも一側面としてはあるようだ。こちらもまだまだ関わりの余地ありと。

昨日は楽しかった。
お盆中は川に通ってみようと思う。
楽しませてもらったからこそ、川レベル、地球レベルでやった方がいいこともある。あまり全知全能視点で行動するのは好きではないけど、全知全能感覚で種を滅ぼしかけてるのだから、毒をもって毒を制すくらいの感覚は、うなぎとつきあうなら必要だと言っていいのかもしれない。

美味しくも泥の味。
ピカピカの梅田の街中にミミズはいない。どちらが泥で、どちらが美味か。
おそらくこの街は、はっきりしてるようではっきりした答えを出さない。
美味しく素晴らしく見せても、どこか泥を噛み砕いたような味を喰わされたことが何度あったことか。

でも時折、地下の薄暗い泥々ジメジメした見た目で、暖かく包み込むような半端一端な解を示すのだ。

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