黒猫の夢

今朝、朝方早く二度寝してみた夢。
苦しかったけど、決して忘れたくないその内容をここに綴ろうと思います。

それはこんな夢だった。

私は賑やかな場所にいる。室内、具体的にはわからないのだけど、たぶん夢の中の私の職場。私は私じゃなかった。知らない男の人の容貌をしていた。

そこに突然、黒猫が現れた。
普通に現れたのではなく、建物の支柱(?)の中からひょっこり姿を見せたのだ。
その猫は目の周りや輪郭がなぜか白かったのを覚えている。
周囲の人と私は、可愛い!なぜこんなところに?と驚きながら、黒猫の方に近寄った。

が、これ以上近づいて触れれば逃げられてしまうのがすぐにわかった。
そしてその逃げる先は、永久に出てこれなくなってしまうような深い深い空間だ。
黒猫は、その小さな顔をどうにか覗かせながらも縦に細長い空間にはまってしまっている。ひと目見て、この穴の大きさでは無理やり引っ張り出すこともできそうにないと、私は理解した。
私は笑って、「ごめんね。助けられないよ」的なことを言って、黒猫を簡単に見捨てた。

そこで目が覚めた。

起きた時には変な夢を見たなと思っただけだったのだが、なぜかその後の黒猫のことを深く、考えてしまった。なんで私はその黒猫をあんなに易々と見捨てられたんだろうか?

はっと、信じられないくらい残酷なことをしたことにそこで気がついた。

その黒猫はそこからしか助け出せないのだ。
もしもそこから離れてまた暗闇に入って仕舞えば酸素がなくなって窒息死するしか、ないのだ。
それがわかっていて見捨てたことにすごく罪悪感を覚え、そしてその黒猫のことを思うと自分も息が苦しくなるのがわかった。
考えないように考えないようにとするのに、考えずにはいられない。

なんで私は無理やりにでも彼女をその小さい穴から引き出そうとしなかったんだろう?
なんであんなにもみすみす彼女を見捨てられたんだろう?
近くにいた私であればなにかできたのかもしれないのに。

そう思うと夢の中の出来事だったのに後悔のようなものが込み上げて、呼吸が上手くできなくなった。

私は暗所恐怖症なのかもしれない。
暫く前、フェイシャルサロンで目を閉じて長時間いなければいけなかった時、とてつもない孤独感と焦燥感に駆られてスタッフさんに助けを求めた事があった。
そして顔の布を退けてもらい、目を開けて暫くするとその恐怖心は失くなった。

今朝のそれは、その恐怖心に限りなく近いものだった。

暗闇の中で、息が上手くできなくなって、窒息してしまいそうな怖さ。
そして可愛いその黒猫に対して簡単に諦め、無関心に、見捨てた自分への嫌悪感と焦燥感。

いつからそんな冷たい人間になってしまったんだ私は。

そう思うと恐怖の次には悲しみが襲ってきた。
こういう時、家に自分以外に人がいて本当によかったと、思った。
彼の布団に潜り込んで夢の話をした。
しようとすると最初はもっと苦しくなったけど、話したかった。

気づけたことを、麻痺してしまった感覚を取り戻した自分を、忘れたくなかったから。

寝ぼけながら彼が、その穴から黒猫が顔を出したのかと訊いたので、そうだと答えた。
それを聞いて彼はこう言った。

「あいつら顔が出せる穴だったら簡単に通り抜けてみせるからな」

その言葉にハッとした私は、その後再び眠りにつく事ができた。
今度は夢を見ることなく、ぐっすりと。

そうだ。
なぜ私は、無理やり彼女を外から引っ張りだすことしか考えなかったんだろう?
たしかにその方が早いし、間違いないけれど、
彼女だってそこから抜け出したいはずだし、逃げて潜ったら苦しい事がわかっているのなら、もしかしたら彼女の方からこちらに歩み出してくれたかもしれないのに。

それを待たずに、信じようともせずに、私はひとりで諦め、見捨てた。

これは私が現実でもずっと無意識にしてしまってきたことかもしれない。

自分のことしか信じられなくなっていた。
重要なのは他人を信じて待つことなのに。

黒猫の夢がもたらしてくれた気づきと、忘れかけていたナニカ温かいもの。
ここに記し残します。

夢に、私の見ない続きがあったのなら、彼女がそのあと無事に抜け出られたことを。
願う。

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