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コロナ記・その2

【発症3日目】

朝、緊急地震速報のようなけたたましい音で目が覚める。
じ、地震……!?
と思ったら、ポケモンスリープのアラーム音だった。
まさかこんな恐ろしい音が設定されているとは。体調が悪かったから恐ろしく感じただけかもしれないが、けっこうなでかさのアラーム音だった。
「ピカチュウ♪」とか、可愛らしい音で起こしてくれるのかと思っていたのに。

おののきながらアラームを止めると「睡眠計測」が始まってしまい、起きっぱなの喉や頭の痛さに耐えながらアプリを見つめる。
夜中、喉の痛みやだるさで何度も目が覚めたし、まったく良い睡眠がとれた感じではなかったのだが、「今回のあなたの睡眠はぐっすり寝でした」と言われ、なんだかよく分からないけどいくつかのポケモンをゲットした。
指示されるままにポケモンたちにサブレをあげたり、カビゴンに木の実をあげたり世話をする。
普段だったら楽しいのかもしれないけど、コロナでこれやるの、けっこうしんどいな……。
でも仕方がない、ポケモンたちには罪はないし……。

身を起こすと、昨日までの体の熱さが感じられなくなっている。
熱をはかると36.5℃。いきなり平熱だ。
メリハリ効きすぎてるなと思う。怪しい。
(実際、この後また38.5℃に上がったり、平熱に下がったりした)

ただ、喉の痛さと頭痛は確実に昨日より増している。
なにか飲み込もうとすると喉に激痛がはしる。水分をたくさん取らなくてはと思うのだが、喉が痛くてなにかを飲む気になれない。

頭痛に関しては、頭全体をひもで縛ってぎゅうっと締め付けられているような痛みだ。
熱が下がったのでカロナールからロキソニンに切り替えて(ロキソニンの方が鎮痛効果が高いため)いるのだが、この頭痛にはなぜかロキソニンが効かない。
頭だけでなく、顔まで痛くなる感じの嫌な頭痛だ。数年前、目の病気になった時に三叉神経痛を併発したのだが、その時の痛みを思い出す。

氷まくらをフル回転させ、ひたすら顔や頭を冷やす。氷まくらはもはや心の相棒、心の恋人だ。

熱は下がっても体は楽にならず、薬を飲むために食べものをすこし口に入れ、薬を飲み、横になる、だるくて泣きそう、を繰り返す。とてもだるい。恐ろしい倦怠感。

午後、ふと目を開けたら部屋がぐわんぐわんと回っていた。
回転性のめまい。こんなの久しぶりだ。
20年くらい前にも何度かなったことがあって、病院で検査を受けたことがある。
わー嫌だなーと思い、念の為、仕事中の夫に「ぐるぐる回るめまい」とメールを打ち、目を閉じて静かに横になる。
何時間かしたらめまいはおさまったが、船酔いのような気持ち悪さが残る。

この日、唯一食べられたもの。
宋家の冷麺だ。
食べたいものがなにも思いつかず、しかも喉が激痛なので飲み込むのがつらいなか、もしかして……と作ってみたら、食べられた。
冷たくてつるつるしていて、酸味があるのが良かった。もともと夏バテしているときに大変お世話になっている宋家の冷麺だが(今年の夏始まってすでに10食くらい食べてる)、こんな時にも救ってくれるとは。ありがとう、宋家の冷麺。

(こんな感じのやつです。冷麺で一番好きです)

夕方、知り合いから山梨のすももが届く。
そういえばコロナを発症した日の朝にこの方と偶然に道で行きあい、「いつもお世話になってるから山梨のすももを送らせてもらったよ」と言っていたのを思い出した。
ありがたい……。すもも、好きだけどなかなか自分では買わないんだよね。
少しだけいただく。甘くてジューシー。

喉の痛みと頭痛はかなりしんどいけど、熱は下がったし食欲が少し出た気がする、と思い(ただの気のせいなのだが)、夫に「餃子が食べたい」とメールする。
病気のときに餃子はないだろう……と思うのだが、この時は本当に食べたかったのだ。
「餃子の王将で買って持っていきます」と夫。

が、実際餃子を目の前にすると食べたい気持ちはまったく起こらず、ひとつだけ無理して食べて、もうダメだーと箱を閉じた。
胃腸に「なに考えてるんすか」と言われている気がする。
こんな体調悪い時にギトギトの餃子はないって……。わたしはアホなのか。
夜は食欲わかず、ほとんど食べられなかった。
なんとか薬は飲む。喉が痛い。

母からLINE。

「調子はどう?退屈してるんじゃない?」

退屈できるほど具合が良くないので……。

「8月の旅行の新幹線取れたよ」

とも。8月に母と娘と3人で軽井沢に行く予定だったのだ。あぁ、軽井沢行きたい。それまでには絶対に元気になりたい。

軽井沢の緑の木々や爽やかな風を想像しながら、ポケモンスリープをONにして、痛む頭と喉を氷まくらで冷やしながらベットに潜り込むのだった……。

(つづく)