またまた、1番目の席
3ヶ月ぶりになってしまった。
自分の感覚ではせいぜいふた月くらいしか経っていない気がしていたのだけど、どうやら3ヶ月ぶりらしい。
つーさんにようやく会いに行けた。
その間に、娘の不登校があったり、わたしの退職騒ぎがあったりして、ああそうか、それでいつのまにか時が経ってしまっていたんだ。
時というものは。
本当に時というものは。
ただ、その間にも、つーさんとは手紙のやり取りは続いている。
つーさんに頼まれた歌の歌詞のプリントをしたり、白いタオルを頼まれて送ったり、つーさんが描いた素敵な色紙絵をプレゼントしてもらったり、四つ葉のクローバーのポストカードを送って近況報告をしたりしていた。
久しぶりに降り立つ小菅。
もう秋も秋、東京拘置所のまわりもすっかり秋景色なのだった。
最近のつーさんは眠る前に眠剤と向精神薬を多めに服用しているので、面会は午前中のいちばん最後の時間に合わせるようにしている。
早めの時間は意識が朦朧として、面会室までも歩けない状態なんや、と言っていた。
今日も11:30(午前の面会申し込みの〆切時間)にすべりこみ、面会室に向かう。
すこしフラフラと千鳥足のような足取りではあるが、にこにことしたつーさんが面会室に現れた。少し痩せて、肩幅が狭くなったような気がする。
3ヶ月ぶりだったけど、まるで昨日も会っていたかのようにおしゃべりが始まり、あははと笑ったり、お互いを心配しあったりして、われわれは友だちとして20分ほどの会話を終えた。
つーさんは、改めて書くと、過去に重大な犯罪を犯してしまい(やむにやまれぬ事情があったのだが)、日本で一番の重い刑が判決として確定した。その執行はいつになるかわからないという状況で拘置所で日々を送っている。
わたしとは同い年、同じ早生まれ。
大阪と東京、生まれ育ちは違うけど、いまから8年くらい前に縁あって初めて面会をして、なんだか妙に気があって、友達づきあいをしている。だけではなく、家族から縁を切られてしまったつーさんの身元引受け人となり、万が一の時にはわたしに連絡が来ることにもなっている。
そこまでの縁になるとは当初は思っていなかったわけだが、人と人とのご縁というのは不思議なもので、わたしは特定の宗教には入っていないけど、それでもなにか神さまのような(お天道様のような?)なにかから、「あんたとつーさんは友だちなんだよ。大事にしなね」と言われているような気がする。
実際われわれはこうして友だちなのである。
今回、つーさんは娘のことをとても心配していた。
学校に行けない状態になっている、と手紙に書いていたので、「○○ちゃん、つらいやろうなあ、心配や」と眉毛を下げながら言う。
「今月から授業に復帰して、がんばって通えているよ。ありがとう」と伝えると、心からほっとしたような顔をして、「よかった~。○○ちゃん頑張ってるんやなぁ。えらいなあ。でもそれはののっつさんの頑張りもあったんやろ?ふたりにご褒美をあげたい気持ちや」と、真剣に言う。
優しいねえ。
また、わたしが、
「実はいろいろあって来月で仕事を辞めることになったんだ」
とちょっと口ごもりながら伝えると、
「そうなんか……」
としばらく事柄を咀嚼するように黙ってから、
「……やられたらやり返したるんやで」
と、上目遣いのギラッとした顔つきで言うものだから、笑ってしまった。
なにも言ってないのに、退職の事情のなかに「やられたらやり返す」という事情が含まれていることを汲み取ったつーさん、すごい感受能力である。
「もちろん程度ってもんはあるけどな、やられたらやり返したらんと。でも、ほら、ワシみたいにこんな風になるほどやり返したらあかんで?」
と畳み掛ける。
「捕まっちゃったら面会にも来られないよ!」
と笑ってしまった。もちろん、冗談である。
ののっつさんの気持ちが楽になるのが一番や。何もしてあげられんけど、そのことをいつも祈ってるで。とつーさん。
また12月に面会に来るね、と言って面会室のドアを閉じた。
宅下げ(中にいる人が、面会者に物を渡すための手続き)があるというので1階の窓口に行く。
「○○ちゃんに読んでもらえたらと思って」と、つーさんは言っていた。娘のことを本当に心配してくれて、この本を選び、お金が無いなか、購入してくれたんだな。なんだか胸がジーンとした。きっと娘に渡そう。
そして売店で、リクエストのあったお菓子や歯磨き粉、お醤油などを大量に差し入れて、拘置所をあとにした。
年末にまた会いに来よう。
その頃にはもう退職している。
もすこし元気な自分で来られるといいな。
足元にも広がる、秋。
今日はまたまた、一番目の席でこれを書いています。