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憧れの楽器③

と、いうわけで引き続き、ヴァイオリンの話。

思いつきでヴァイオリンの体験レッスンを受け、即決で入会届を叩きつけてしまったわたしは、一週間後、初めてのレッスンに行ってきた。

レッスン枠の空きがなかった関係上、おそらく最後の枠と思われる遅い時間帯にレッスンを受けることになった。
20時開始である。習い事にしてはわりと遅い。暗くなってから家を出ていくなんて夜の習い事って感じだ。不思議な気分。

夜道をいざ、ヴァイオリンレッスンへ。

19時半くらいに家を出て、電車にひと駅乗っていく。
帰ってからの夜ごはん用に豚汁だけこしらえて家を出てきた。

キャプテン(ディズニーランドのジャングルクルーズの船長のような雰囲気の先生なので、仮にキャプテンと呼ぶ)は、今日もディズニーキャスト的さわやかさをまとって登場した。

↓キャプテン登場の日↓

なんでこの人、こんなにディズニーっぽく感じるんだろう?もしかしたらそう感じるのは私だけかもしれないけれど、たぶん、声と笑顔がディズニー的なんだな。でも、なんか他にももっとしっくりくる形容がある気がする…などと思う。

「じゃあ、先週やったことをおさらいしてみましょうか」

と言われ、わたしは「はい」と楽器をアゴにはさみ(アゴにはさめる喜びをかみしめ)、基礎的な練習をした。
GDAEそれぞれの開放弦を弓で鳴らす練習や、1から4番の指を使って弾く練習。
弦を弓でひけば音は出るのだけど、なるべく同じ圧力で弾き切ることや、弓の角度を変えずに弾くことなど、かなり注意が必要な楽器なのだということがわかった。

特に、「ふたつの弦を同時に鳴らす」というのが難しくてだいぶ苦戦した。
私がこれまで経験した弦楽器は、どれも弦が並行して上下の高さなく並んでいたので、右手(弾くほう)はなるべく肘ごと固定して弾くものだった。
でもヴァイオリンは山なりに弦が張られているので、弾く弦を移動する時には右手を肘ごと上げ下げしなくてはならない。
二弦同時に弾く時は、角度に気をつけないと途中でどちらかの弦の音が消えてしまう。
その加減がつかめなくて、とても難しい。

赤いレトロな表紙のテキストに沿って、譜面を追っていく。

音がかすれたり変になると不安になり、「おかしくないですか?」「これ合ってますか?」と尋ねてしまい、そのたびにキャプテンが「大丈夫ですよ」とさわやかに頷いてくださる。
もはやわたしは、めちゃめちゃ、くそまじめと言っていい。

「じゃあ、次回はこの続きからやりましょう。」

と、キャプテンが笑顔で赤い表紙のテキストを閉じた。
あれ?もう終わった!?と思う。

レッスンは30分だけど、本当にあっという間。
本当に30分経ちました?
えー、もっと弾きたい。
ぜんぜんまだ弾けるぅ。

とはもちろん口には出さず、おとなしく備品の楽器をお返しして、キャプテンにお礼を言ってレッスン室を出た。

家でも練習したいな!!
というか練習しないと上達しないよね。
やはり早めに楽器を入手することが必要だな。
(今は教室の備品をレッスンの時だけ借りている)

帰りに受付カウンターに寄り、スタッフのお姉さんに楽器の購入やレンタルについて話を伺った。
どうやらまずはレンタルにして、いくらか弾けるようになってから購入するほうが良さそうだ。

「じゃあ即決で今日からレンタル!!」と、またも即決禁止ハチマキをかなぐり捨てかけたが、レンタルはひと月単位なので6月にならないと借りることができない、とのこと。
あ、そうなんですね。ハチマキをしめなおす。

すっかり夜になった街をてくてく歩いて、またひと駅だけ電車に乗って帰った。

楽しかったな。

今日わたしは、30分のレッスンのあいだ、嫌なことも不安なことも、明日ある憂鬱なことについてもなにも考えなかった。
ただ楽器と向き合って、奏でることに集中していたのだった。

人生にそういう時間が30分あるというだけでも、それはとても貴重なことだと思う。