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憧れの楽器⑨ ~物理で3点をとったことを思い出す~

もうこれ、先週の月曜の話なのですけど。
コロナが明けてはじめてのヴァイオリンレッスンに行ってきました。

なんと前回のレッスンから半月以上も空いてしまった。
月に3度しかないレッスンなのに、貴重な1回をコロナで欠席してしまったのだ。くやしい。痛恨。コロナのばかやろー。

レッスンはなくても自主練はなるべくしておかねばと思い、まねきねこ練(カラオケまねきねこで練習すること)を何度かおこなった。

そのうちの1回、カラオケボックスの受付のお兄さんが特有の気だるさで「えっとぉ、ちょっといま混みあっておりましてぇ~」と言って通してくれた部屋は、笑えるくらい広いパーティールームだった。

なぜ!?
ひとりなのに!?

入る部屋を間違えたか?と思って渡された伝票を何度も見るが、合っている。
およそ20人以上は入ろうかというパーティールーム。
たぶん、混んでて逆にそこしか空いてなかったんだろうね。
広い部屋のどこに座っていいものか分からず、すみっこにちょこんと楽器を置き、しばし沈黙。まぁいいか、大は小を兼ねるし、と気を取り直して楽器を取り出す。

自主練では「A線とD線の弦の移動」をメインにもくもくと教本をすすめる。
何度かやっているうちに、移弦にもだいぶ慣れてきた。
教本をめくっては弾き、めくっては弾く。
まだレッスンでは扱っていないG線、E線にもちょいと手を出してみた。
自己流ではあるが、4本の線すべてに弓を置けるようになると、ちょっとした感動がある。

自主練の最後にはいつも、いつか綺麗に弾けたらいいな…と思っている、とても好きな「主よ御許に近づかん」(教本にのっている)を弾いてみている。
楽器を始めた当初は「こんなのどうやって弾くの?」という感じだったが、練習を重ねるにつれ、なんとなく曲っぽく弾けるようになってきた。うれしや。ゆっくりと成長を感じる。

そんな感じでまねきねこ練を重ねた上で、先週のレッスンです。

3週間ぶりにお目にかかったキャプテンは、前髪をすこし短めに整えられ 、「暑いですね!」とにっこり。ますますディズニーのお兄さんっぽくなられていた。
……劇団四季っぽくもあるかもしれない。雰囲気的に。などと思う。(いまにも歌い出しそうなので)

ただ、今回も和柄のシャツを召されており、あぁ、やっぱりディズニーよりも和風のものがお好みなのだな、とも思う。

レッスンが始まる。
個人練ではスイスイと弾けているはずだったA線・D線の移弦だが、レッスンだと「うまく弾かなくては」と力が入るのか、すこしギコギコと異音がしたり、弓がバウンドしてしまったりする。
人前で弾くってやっぱり緊張するんだな。
ひとりで弾くのと、誰かに聴かせるのとでは身体の力の入りかたが違うのだと思う。楽器は身体で弾くものなので、音にもそれが伝わる。

すかさず、キャプテンが見本を見せてくださる。
スイスイ~っと移弦しながら譜面を追い、滑らかでなんの違和感もない。まったく力が入っていない弾きぶり。すごー。
すばらしくて思わず拍手してしまう。
(拍手してる場合ではないのだが)

こんなに上手な方に、マンツーマンで目の前で見本を見せていただけるのが本当に贅沢だなぁと思う。
できればもっとたくさん弾いてほしい。これはもう普通に、演奏を間近で見たいっていう願望なのですが……。

と、キャプテンが、

「昔、理科の授業で支点・力点・作用点ってありましたよね」

とおっしゃる。

「弦移動って支点の応用なんです。弦から弦にうつるとき、前の弦を支点にして、てこの原理で無理なく次の弦にうつります」

あー……。
そんなのあった?
あったかも。
わたしの脳内に、シーソーみたいな、てんびんみたいな、めちゃくちゃあやふやなイメージの「支点・力点・作用点」像がホワワワーンと湧いてくる。

わたしは理科、特に物理が大の苦手で、実は中学三年の物理の中間テストで3点をとったことがある。
もちろん100点満点で、である。
テストを返された時はさすがに「やべ」と思った。
物理のナガハラ先生に教員室に呼び出され、怒られるのかと思いきや、慈愛に満ちた目で、
「……どうした?」
と疑問形で尋ねられたのをいまでも覚えている。
優しくされるのって、怒られるよりけっこう辛い。
どうしたんでしょうね、と思ったまま、とうとう物理とは仲良くなれずに大人になってしまった。

まぁでも、わかる。
わかります。キャプテンのおっしゃりたいことは、物理が3点でもなんとなくわかります。

弦から弦へ、ジャンプして飛び移るわけじゃなくて、右足から左足に体重移動するみたいな感じの力の移動によって移るってことですよね。

自分なりに「支点」を意識しながら弾いてみると、確かに移動がすこしなめらかになったような気がした。

レッスンの最後に、ようやく、知っている曲が登場。
「ちょうちょ」と「むすんでひらいて」だ。
知ってる曲がレッスンで弾ける~!と静かにテンションがあがる。

キャプテンはこうしろああしろとは言わず、「自分の好きなテンポや解釈で弾いてください」
というスタンス。
楽譜に指示があることは意識するけど、それ以外の部分で「こんなふうに弾きたい」と思って弾くことが、演奏家としてのその人らしさや個性になるんです、と言う。

「ちょうちょ」はゆったりとロマンティックに、「むすんでひらいて」はたのしく弾きたいな、と思い、そんな感じで弾いてみた。
いやー、やはり曲を弾くのはたのしい。

あっという間の30分が終わり、また次回。

楽器をケースにしまっていると、しばらくシーンと黙っていたキャプテンが、

「あの、支点で合ってましたっけ」

と言う。

え?と楽器をしまう手を止めて顔を向ける。

「さっき僕が言ってたの、支点で合ってましたっけね。力点と作用点と、どこがどれでしたっけ」

えっ。

わたしの脳内で、ふたたび、物理3点の限界によるシーソーっぽい図を再生。
しかし、どこの点がどの名称だったかはぜんぜん分からない。

「すみません、わたしは物理が死ぬほど苦手でして、もう本当にどれがどれやらおぼろげでして……」

と正直に申し開いた。
3点をとったことがあるんです、と言いかけたが、そこまではいいだろうと判断してやめた。

「でも、先生が言わんとすることはわかります」

と、てこの原理を示すように腕をキコキコと動かすと、あははっと笑ってくださるキャプテン。

帰りの電車のなかで、ヴァイオリンケースを小脇に抱えながら「支点・力点・作用点」をGoogle検索する。
あ、合ってる。支点だ。
弦の移動は「支点」を意識ね。うんうん。

次回のレッスンはお盆休みを挟んで2週間後。
実はその日は軽井沢旅行から帰ってくる日なので休まないとダメかと思ったが、キャプテンのレッスンは20時からなので一度家に帰ってからでも間に合ってしまうんだな。
先月、コロナで1回休んでしまったので、気持ち的にはもう休みたくない。
軽井沢→一度家に帰る→レッスン、を強行しようと思っている。

夏が終わる頃には、4本の弦がすべて弾けるようになっているといいな。とりあえず今はそれが目標。