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憧れの楽器⑧ ~踊るキャプテン~

2週間前のヴァイオリンのレッスンの記録です。

なにしろそのあとコロナ陽性を挟んだため、どえらい昔のことのように感じるしなんかもう記憶が……という感じなのですが、覚えてることだけ書いときます。

・・・

A線からD線へとレッスンが進んで、最初のレッスン。

雨が降りそうで降らず風だけがつよい変な天気で、教室に向かうみちすがら、遠くの空で稲光がかすかに光っていた。

レッスンがはじまる前は、レッスンルームの前で座って支度をするのだが、フルートを用意する人、ベースやギターを抱える人、歌う人、などさまざまな生徒さんと一緒になる。
「お疲れさまです」
と挨拶し合うのだが、皆さんきっと日中の仕事や活動を終えてここに移動してきているのだろうなと想像する。

レッスンルームの扉を開けてにっこりと挨拶してくださるキャプテンは、前回に続き、今日も和柄のTシャツを着ている。
「もしかするとこの方はディズニーよりも和風のものがお好きなのかもしれない」と頭の片隅によぎる。

(ちなみにキャプテンはこれまでひとこともディズニーが好きだともディズニー柄の何かを身につけていたこともなく、「雰囲気的にジャングルクルーズのキャストをやってそう」というわたしの勝手な決めつけである)

レッスンがはじまる。
なぜだかよく分からないのだがD線はよく音が出て、サクサクと弾けてしまった。
キャプテンが「いいですね。じゃあ次いきましょう」とどんどんマルをつけて教本のページを繰っていってしまう。

そういえばわたしはマンドリンを弾いてるときもD線の音がいちばん安定しているような気がするな。
相性がいいのかもしれない。
もともと高音より中音域のほうが好きだし、好みの音域ではあるんだけど、でも線との相性なんてある?

などと思いながら必死で弾いていると、視界のすみでチラチラと動く和柄のなにかがある。

え、なに?と思って楽器と譜面から目を離して見やると、キャプテンがわたしの基礎練の音に合わせてひらひらと両手と体を動かして気持ちよさそうに踊っている……!!

え、この人こんなへたくそ初心者の基礎練で踊ってる……!?!?
しかもちょっと鼻歌まで歌ってる。

そもそも基礎練で踊る人なんて生まれて初めて見た……!

あまりに衝撃的すぎて一瞬ガクッと弓をはずしてしまったが、なんとか動揺をおさめて引き続ける。

すごいな……。キャプテンはきっとヴァイオリンや音楽が大好きで、上手へたの区別なくどんな音でもスッと音楽の世界に入ることができるんだろう。
もともと先生というよりはアーティスト寄りの人だなと思ってたけど、観察して教えるというより、一緒にその音の中に入って感じることができる方なのかもしれない。すばらしいなー。

と思いながらわたしもなんとか一緒に音を楽しもうとしているうちにD線をクリアしてしまった。はやかった。

で、次は「AとDの混合練習」だ。
A線とD線を行き来して弾くため、弓を持つ右腕の角度を変えながら音を繋げていかないといけないし、弦を押さえる左手の指もなめらかに移動させなくてはいけない。

音を繋げることに苦戦しながら弾いていると、ここでキャプテン、

「D線を押さえている指を離さないままA線を弾いて、少ししてから元の指を離すとイゲンがうまくできます」

ニコッとアドバイス。

………威厳がうまくできる?

え、威厳って「する」ものだっけ?
あ、音におごそかさが足りないって意味かな?ヴァイオリンの業界用語的な?

でもわたしまだ基礎練の段階だし、威厳をもって弾くというのも難易度高いんですが………、せめて胸を張って、荘厳に、ええと………

と、自分なりにおごそかさを演出しながら胸をポパイみたいに張って弾いていて、5分くらいしてハッと気づいた。

「移弦」だ……ッ!

「威厳」じゃない……ッ!!

完全に勘違いしていた自分が恥ずかしくて、穴があったら入りたいどころか穴を掘って埋めてもらいたいレベル。
文脈を読めよという話である。威厳なわけないでしょう。
もちろん勘違いをしていたことはキャプテンには告げず、ポパイから普通の人間に戻り、心のほら穴に一旦自分を突き落としてからまた這い上がってきて、練習を続けた。

A線D線の混合練習の途中できょうはタイムアップ。
次回、混合練習がすすめば今度はG線に突入だなー。
次の練習までに、おこたりなくまねきねこ練をしておかなくては……。

(そして、この一週間後、わたしはコロナを発症してレッスンをお休みするのであった……)