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「つば九郎さん」への手紙
東京ヤクルトスワローズ
"つば九郎さんを支えてきた社員スタッフ"様へ
2025年2月19日の球団発表から、一週間が経ちました。
あの日、球団ホームページの
「これまで、つば九郎を支えてきた社員スタッフが永眠いたしました」
の文字が、わたしにはどうしても理解できませんでした。受け入れることを心が拒み、それでも事実なんだと頭では分かっていて、それからは朝も夜も壊れた蛇口のように涙が出て、泣いても泣いても枯れることのない一週間でした。
こんなに悲しいことがあるんだ、と思いました。
その一方で、どうしてもあなたに、これまでの感謝や、どれだけ人生を支えられ励まされてきたか、そしてどれほどその不在を悲しんでいるかを伝えたいとも思っていました。
でも、いざそれをしてしまうと、
すべて過去のものになってしまうのではと怖くて、文字にも言葉にもすることができずにいたのです。
いまもまだ、深い深い喪失感と悲しみのなかにあります。
それでもやはり、どうしても感謝の気持ちをお伝えしたく、ちいさな勇気を持って、お手紙を書かせていただくことにしました。
わたしはいま45歳です。
中学一年生の時にヤクルトスワローズのファンになり、30年以上が経ちました。
つまり、わたしのファン人生は、ほぼ同時期にデビューされたつば九郎さんと常に共にありました。
わたくしごとですが、中学一年生の途中から、わたしは学校に行くことが出来なくなりました。いわゆる不登校児です。(当時は「登校拒否児」と呼ばれていました)
親に心配や迷惑をかけ、"普通"のルートをはずれ、"学校に行けている子"でいることができなくなったわたしは、自分なんていなくなったほうがいいのではないか、この先も"普通"には戻れない親不孝者なのではないかと毎日思っていました。
そんな暗い日々の中、わたしを支えてくれたのがヤクルトスワローズと、そしてつば九郎さんの存在です(その当時はまだつば九郎さんはそこまでの存在感は発揮されていませんでしたが……)。
ヤクルトの皆さんが大好きでした。ヤクルトの試合をナイター中継で見ること、ラジオで聴くことが、嬉しさや悔しさや喜びなど、心を動かして生かしてくれました。
その後、一年半ほどしてなんとか学校に戻ることができ、友達なんてできるんだろうかと暗い気持ちで入った新しいクラスで奇跡的にヤクルトファンの友だちができ、何度も一緒に神宮球場の外野自由席で応援をしたことは大切な青春の思い出です。
20代で結婚し、30歳で娘が産まれました。
産後うつのような状態になったり、育児と仕事の両立の大変さを乗り越えることに必死であったり、40歳の頃には珍しい眼の病気になり、一昨年には原因不明の口内の痛みが続く病気になったりもしました。
人生にはいろいろなことが起きます。
つば九郎さんもきっとそうでしたよね。
そんな風に人生にくじけそうになるたび、わたしを支えてくれたのは、つば九郎さん、あなたでした。
あなたは一年365日、盆暮れ正月どんなときでも毎日休まずブログを更新していましたね。元旦にまで書かなくても。と毎年思っていました。でもブログの更新は毎日必ずありました。
それはおそらく仕事の範疇を超えていて、自ら「つば九郎」としての使命感のようなおこないだったのではないでしょうか。使命っていうか、もっと当たり前に、あなたの人生はつば九郎そのものだったのだろうと想像しています。
それほどまでに、あなたが毎日つば九郎さんであり続けていたことを、ファンはみんな知っています。
あなたが大切に綴っていたそのブログはいつも、「みんなえみふる」「きょうもえみふる」と、笑おうねという励ましで終わるのでした。
あなたの人生にも、つらいことや、大変なこと、淋しいことがたくさんあったはずです。
それでもいつも変わらず励まし続けてくれました。
フリップ芸や記者会見のときはいつも毒舌、傍若無人なふるまいも時に見せていましたが、毎日のブログを読んでいれば、本当は心優しく温かい人であることが深く伝わってきました。
自腹で交通費を払って、遠方での日本一に駆けつけたこともありましたね。それでも胴上げの輪の中には加わらず、ちゃんと一線を引いて、監督や選手へのリスペクトを忘れない。あなたは尊敬すべきマスコットのプロであり、それなのに私生活も完全には隠さず、実におじさんらしくスタバの注文方法が分からないとか、実におじさんらしい自炊料理をブログにあげてしまうとか、そのバランスがとても不思議で、とても人間らしさに溢れた生き様を見せてくれました。
本当に、あなたにどれだけの人が励まされたことでしょう。
2回だけ、チケットに当選してドアラさんとの筆談トークショーに参加できたことは宝物のような思い出です。近くで姿を見られるだけでも嬉しかったのに、なんとその2回とも、わたしと娘の質問がそれぞれに採用され、つば九郎さん(とドアラさん)が直筆でお答えを書いてくれ、サインを入れて豪快にビリッとやぶってプレゼントしてくれたのです。
まだ中学生だった娘からの質問、
「明日から学校の新学期が始まります。どのように新しい一年をすごしたら良いでしょうか?」
という質問に、ドアラさんはとても真剣に答えてくれたのに対し、つば九郎さんは「しょにちからばっくれろ!!」と回答しました。
あまりの答えに大喜び&爆笑していたら、司会の方に「お母さん爆笑してますけど……いいんですか?」と笑われてしまったことを覚えています。つば九郎さん、席に向かって手も振ってくれましたよね。
その紙は大切に持ち帰り、家宝として飾っています。見るたびに笑ってしまうんです。
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しょにちから、ばっくれたっていいですよね。普通じゃなくたっていいんです。生きているんだから。
リーグ優勝を神宮球場で一緒に見られたことも嬉しい思い出です。つば九郎さんはとても誇らしそうに選手を誘導し、球場一周の先頭を歩かれていました。
そして2000試合出場達成のときの、軽トラックに乗って「浪漫飛行」とともに場内を一周していた時の万感こもった表情(表情なんてないはずなのに)も忘れることはできません。
あのとき、どんな思いがあなたの心の中によぎっていたのでしょう。
そんな30年をともに過ごしたただのファンである私は、あなたがくれた励ましや笑い、温かさや愛をただ受け取るばかりで、何のご恩も返すことができていません。
そしていまもなお、「ありがとうございました」「安らかにお眠り下さい」と過去形で書いてしまうことができません。それをしたら本当にいなくなってしまうのではないかという自分勝手な理由で、ご冥福をきちんと祈ることができずにいます。本当にごめんなさい。
あなたがいまどんな気持ちでいるのか、
もっとたくさんやりたいことがあったのではないか、見たい景色があったのではないか、
新しい球場にも行きたかったのではないか、
それらすべてができなくなりどれほどの無念がおありだろうと、それを思うと胸が潰れそうです。
「一度出会ったら、人は人を失わない」
あなたが亡くなられたあと、少しして、私はこの言葉を思い出しました。
むかし読んだ本の中にでてきた言葉です。
そうだった、と思いました。
だから1度だけ、「つば九郎さん」ではなく、このように呼びかけさせていただくことをお許しください。
○○さん(スタッフさんのお名前、ここでは伏せます)、これまで"つば九郎"でいてくださってありがとうございました。人生を励まし、救ってくれてありがとうございました。
私は、"つば九郎さん"を通して、この世で○○さんと出会うことができました。
私がいまとても淋しいのは、○○さんのつば九郎さんに出会い、大好きだったからです。
出会えて、大好きになったから、淋しくて仕方がないのです。
だからこれからも何度でも「ありがとう」とお伝えしようと思います。「あなたがいなくなって本当に淋しいです」とお伝えし続けようと思います。
わたしはこれからもヤクルトスワローズを応援し続けます。ほかの球団もです。選手が躍動し活躍するすばらしい日本のプロ野球を応援し、大好きでいます。
そして、いつかヤクルトスワローズの大切なマスコットキャラクターである"つば九郎"が神宮球場にまた現れたとしたら、そのつば九郎のことも、どのつば九郎のことも、私は全力で応援するでしょう。
それが○○さんへのご恩返しになればいいなと思っています。
いまはまだ、「きょうもえみふる」でいることは難しいですが、もうしばらくして涙が出なくなって、「すこしだけえみふる」でいられるようになったら、そこからは日々を「きょうもえみふる」で送れるようにがんばってみます。
淋しさは消えません。
でも、これからも私はきっと○○さんと出会い続け、100回でも1000回でもありがとうを伝え続けるでしょう。
悲しさや淋しさは消えなくても、出会えた喜びもまた消えることはないと信じます。
また、神宮球場でお会いしましょう。
また必ずお会いしましょうね。
いまは、感謝と涙ばかりです。
2025年2月26日
ののっつ
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