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映画「西湖畔に生きる」を考える

先日用事があって大阪に出た時に、隙間時間で何か観れる映画ないかなーと探したら、これともう一つ・・・何だったか忘れてしまったのだけど・・・あって、スマホでトレイラーを観てこちらに決めた。
なんだかとても情景が綺麗そう・・・だけどストーリーはちょっと波乱含みな感じ・・・とても興味をそそられた。

この公式サイトも美しく見応え読みごたえがあっておススメ。

オープニングからめっちゃ「中国」な感じ、というか、中国。
そういえば、中国が舞台の映画は見たことあっても、純中国製作の映画って初めてかも、とすごく新鮮な気持ちに。

ちなみに「西湖畔に生きる」は英語タイトルの「Dwelling by the West Lake」を訳したものであって、原題は「草木人間(そうぼくじんかん)」-人の世は自然の中にある、と言うような意味だとのこと(公式サイトより)
日本でこの原題を使うとどうしても「身体から草木の生えた人」をイメージされてしまうということで英語タイトルを採用したとのことだ。

監督はグー・シャオガンという、36歳新進気鋭の監督。
「中国山水画の世界を映画にしたい」というコンセプトで映画作りをしている方だそうで、これは「山水映画」第二弾。
確かにそういう世界がスクリーンに広がっていて、そこは私にとっても好ましい部分だった。

ストーリーは、マルチ商法の沼にハマってしまった母と、それをなんとか救おうとする息子の話で、「目連救母」という仏教説話を本歌取りしつつマルチ商法の怖さを描こうとしたとのこと。

その「目連救母」という話はどんな話なんだろう、と帰宅してから調べてみたのだけど、端的に「こういう話」と書いてあるものは見つからず、要点としては「地獄に落ちた母を息子が救う」話であり、「息子が直接救うのではなく、善行を行うことによって母が救われる」という主旨のものらしい、というところまでしかわからなかった。

不本意な人生を送ってきた主人公の母・タイホアは、季節労働者として働く茶畑の主と良い仲になって、これでようやく小さな幸せを掴めると思っていたが、男の母親に反対されて追い出されてしまう。
その仕打ちに腹を立ててタイホアと一緒に仕事を辞めた友の誘いで、マルチ商法の世界に入って行く。
そこで生まれて初めて自分を肯定される喜びを知ったタイホアは、もうそこから一歩も動けなくなってどんどん深みにはまっていく。

息子はマルチと知りながら、母を救うべくその世界に入って行くが、引き戻すことが出来ない。
必死に説得する息子の前で、自分にはもうここしかないのだと狂ったように絶叫するタイホアは、ただただ哀れで痛々しい。

しかしマルチ商法は破綻し、自分の世界を失ったタイホアは廃人のようになってしまう。
そんな母親にどこまでも献身的に寄り添う息子・ムーリエン。

水の中を深く深く沈んでいく母を救おうと、深く深く追っていくムーリエン、というシーンがあるのだけど、そうか、あのシーンはそういう事だったのか、と、ふと今思い至った。

そう、この映画、母が壊れた後、唐突に世界が非現実的になるのだ。
深く深く沈んでいった二人は、水辺に打ち上げられる。
目を覚ますのはタイホアだけ。
そしてそこでタイホアは山から現れた(と思われる)虎と対峙する。

これがねー、わからなくて。

この虎は、いかにも神の遣いのような静かで威厳のある佇まいなので、最初は神の化身かなと思ったの。
でも、タイホアはその虎を威嚇するのね。自分も虎の様に。

これがわからなくて、普段あまり買わないパンフレットを買って読んだら、監督のインタビューでタイホアは精神的に救われる、と書いてあった。

ということは。

私なりの解釈としては、虎はタイホアの邪の部分で、息子を喰いに来たのを守ったということなのかなと。
最後に、そこまで追ってきた息子を守ることで母親に戻れて、救われた、という事なのかなと。

その後、タイホアが茶畑の仕事仲間と笑いあうシーンが入り。

それで多分、私の勝手な解釈だけど、タイホアは最期の瞬間に、職場の友たちと無邪気に笑いあっていた頃を思い出して、不幸だと思っていた自分の人生にも幸せを感じる瞬間があったのだと思えて救われて旅立ったのかなと。

息子のムーリエンが最後まで諦めずに母に寄り添ったことで、母は救われた、ということなら、目連救母の話と重なってくる。

ただ、その先にあるラストシーンはまだ消化できていない。

憑き物が落ちたような、すっかり落ち着いた佇まいのムーリエンがどこかの禅寺を訪ねていて、「お父さんかもしれない人に心当たりがある」とか声をかけられて・・・
というところで唐突に終わる。

これまた訳が分からない展開で、ちょっとモヤモヤを抱えたまま映画館を後にすることになった。

ここに書いたのは本当に物語の中心の部分だけで、もちろん他にいろいろな登場人物がいて、それぞれ意味があるように思える。
映画の冒頭で父親の事や父親にまつわるエピソードなども語られる
そのあたりをもう少し理解出来たら、ラストシーンもわかってくるのかもしれない。

こういう話は、仏教を信心している、あるいは知識として良く知っている人や、あるいは儒教的な感覚を持つネイチャーの中国人にはわかりやすいのかな(仏教と儒教は違うとは思うけど)。
息子のムーリエンを演じる俳優さんはとても今どきのイケメンくんだったけど、ただひたすら母に寄り添うだけの人なので、ちょっと現実感がなかったりもして、だから余計に深読みしたくなる映画だった。

パンフレットは写真が美しいのと、監督のインタビューを始め、画家や映画評論家や音楽担当の人による解説が載っていて読み応えもあり、買ってよかったし、きれいな写真を見ているともう一度観てみたい気持ちになる。

そして何より、カンヌで評判を呼んだというこの監督の第一作-山水映画第一作でもある-をぜひとも観てみたいし、この「西湖畔に生きる」の後に山水映画第三作目を予定しているらしいので、それも楽しみだったりする。

久しぶりにいろんな意味で引き込まれた映画だった。

またまた長くなりました。
最後までお読みいただき、ありがとうございます<m(__)m>

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