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音読 『感受体のおどり』 第33番

 第33番を音読します。

 橋にかかったころから,垂れこめた雲にごく淡い赤ぶどう酒いろのけはいがあるようで, (以下は略)

単行本『感受体のおどり』040ページより

第33番: 風景・物書き(私)

 働き疲れて寝に帰るだけの町。夕暮れに染まる風景と、ふいに聴こえてきた古い流行歌によってあふれ出してくる、取り返しのつかないという気持ちと、まだ失っていない、物を書く情熱への自覚。

  

そこに数百じかんいすわれば物が書けはじめると知りながら,

本文より

 主人公の「私」は、社会人として求められることを毎日きちんとやり続けてしまう(食べてゆかなくてはならないという理由はあるにしても)。だから、人生を賭けてやるべきことに没入できないでいます。
 しかも、この時期の仕事のモチベーションには、厄介な要素が入っているわけで・・。

恋にはたらきほうけた.

本文より


 少しずつ赤ぶどう酒の色に浸されてゆく街の風景。ふと、普段行かない道へ歩いて行って、いつもは興味のないような流行歌が沁みてゆく心持ち。主人公の「私」ほどに「やるべきこと」があるわけではなくても、こんな夕暮れ時は自分にもあったような気がします。
 何度も読むうち、第33番の世界を丸ごと受けとめるというより、丸ごと入ってしまいました。

 

れがけ とルビあり。あと読みにくい漢字は、
  日輪(にちりん)  醒める(さめる)  哀傷(あいしょう)  
  暗澹(あんたん)  鬱情(うつじょう)  


 noteを書き進めるために、何度も何度も閉じては開く単行本・・。今日もまた、膝の上から取り落として、エーン、と泣きました。もう一冊買うかなあ・・。


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