幸福な記憶

ヴァイオリン職人の探求と推理

──最後の和音が消えて、いま一度静寂の中にひとりきりになると、いやおうなく妻のことが思い浮かんだ。…(中略)…ピアノの前にいる彼女を、鍵盤の上で踊るその細い指を、喜びに輝く目を思い出し、幸福な記憶というのはどうして不幸な記憶よりこんなにもつらいものなのだろう、とまたしても思った。

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