映画「誰も知らない」〜アタシは幸せになっちゃいけないっての? について
※この映画は虐待(ネグレクト)をモチーフにしています。読む際は注意してください。
5人の子供を抱えたシングルマザーが、子どもたちを残して男の元に逃げちゃったがために、残された子供だけで生活できず、結果幼い命が失われてしまった実際の事件があったらしい。
それをモチーフに、作られた映画が、「誰も知らない」であって、カンヌ映画祭で賞を受賞した作品でもあるらしい。
このネグレクトをした母親役を、YOUが演じているわけだけれども、海外の視聴者は、エンドロールに流れる母親役の名前を見て、名前ではなく「YOU=あなた」だと読んでしまい戦慄した、という話があるとかないとか。
それはさておき、この母親、息子から「お母さんは勝手だよ」と言われると「アタシだって幸せになっちゃいけないっての?」「本当に勝手なのはあんたのお父さんだよ」と返す。それを見ていると、ここでは描かれなかった母親の方の人生を考えてしまう。この人もまた、誰かに虐げられて育ったんじゃないだろうか、なんて。
虐待を受けて育った人は無意識に自分を虐げる人の元に行きたがる。
それは、自分が虐げられていることに慣れきってしまって、虐げられていない状況になると、なんとなく落ち着かなくて、自然と自分を虐げる人の元へ向かってしまうらしい。
残念なことに、虐げられて育った女性は特に、虐待する親から逃げるために、そして与えられなかった愛を得るために、他人より早く「優しそうな」男性を見つけて逃げ込む。そして、一見「優しそうな」男性は、実際は嘘つきだったりdv男だったりするわけで、実家に帰れない彼女らはますます孤立して追い込まれる。
5人の子供の父親が、みんな違う人で、しかも出てくる父親出てくる父親、みんな無責任な人間ばかり。蒸発しちゃった父親もいれば、小学生の子供の前で「お前のかーちゃんとはコンドームつけてたんだから、絶対あの子は俺の子じゃない」とか言っちゃったり、パチンコばっかりやってたり、借金まみれだったり。極めつけは、だれも子供の出生届をだしていない。
多分この母親が離婚(?)したのは彼女の性格の問題というより、彼女と歴代彼氏たちの双方が無責任だったからなんだろう。
何もしないことは罪で、大人になった以上、やるべきことはやらなくちゃならない。
この物語は母親にばかりフォーカスを当てるけれど、実は一番何もしてないことで無責任なのは、父親たちだったりする。
「アタシだって幸せになっちゃいけないっての?」という言葉は、それだけ聞けば間違いじゃないんだろうけど、まだ誰かに守られていなくてはならないはずの子どもたちに言うなんて、言う相手が間違ってるし、言うべき相手は「一番勝手な」父親たちだったんだろう。
あんまり暗くなりすぎると辛いとでも言いたげに、この映画は終始優しい音楽に包まれている。
いっときは楽しそうな子どもたちの生活まで映す。
それはきっと、この生活は悪いことばっかりじゃなかったんだよ、とでも言いたげに生活を描写してるかのようだけど、「親に捨てられた子供」の心の傷を、世間のみんなでマイルドに見ようとしているように見えて、モヤモヤしてしまう。
学校を出ていない子供、そして誰かに無条件に「ここにいていいよ」と言われたことのない、むしろ「お前達さえ生まれなければ」という言外のメッセージを受け続けた人間が、その後普通の人の中に混じっていくために乗り越えなくてはならない壁は大きい。
そして、失われた命はかえらない。