緑ちゃんのお母さん
緑ちゃんのお母さんは、図書館で司書をしています。緑ちゃんのお母さんは、緑色です。緑ちゃんのお母さんだからです。緑ちゃんのお母さんの緑は、薄いけれど濃い緑。緑の中の緑。それが緑ちゃんのお母さんの緑。
緑ちゃんはまだまだ若い緑。緑も薄くて、お母さんみたいな立派な緑になるにはまだまだ時間がかかりそう。ちょっと才能に乏しいかな、緑になる才能が。
お母さんは緑ちゃんの緑になる才能を気にしています。緑になれないんじゃないか、もしかしたら青くなってしまうんじゃないか。青なんて最低です。緑ちゃんは緑にならなければいけないのに、よりにもよって青になるなんて。緑ちゃんがもし緑になれなければ、きっと恐ろしい未来が待っています。緑ちゃんが緑になれない未来。
お母さんは緑ちゃんが緑になれるよう一生懸命育てています。緑になりなさいと枕元でささやいてみたり、ちょっと赤っぽくなっているところがあったらすぐに葉物野菜を食べさせてみたり。緑ちゃんのお母さんは、緑ちゃんを立派な緑にするために頑張っています。
ある日、緑ちゃんのお母さんが川で洗濯をしていると、上流から大きな柴刈りがどんぶらこどんぶらこと流れてきました。緑ちゃんのお母さんは、とっさに柴刈りを怒鳴りつけてしまいました。
「危ないでしょ!うちの緑ちゃんが緑になれなかったら、あんたどう責任とんのよ!」
緑ちゃんのお母さんは、緑ちゃんのために柴刈りをとんでもない剣幕で𠮟りつけ、柴刈りはその場でしゅんとしてしまいました。しゅんとした柴刈りは、川をどんぶらこどんぶらこと下るのをやめて、さらりさらりと流れていきました。緑ちゃんのお母さんもこれで一安心。やっぱり我が子の未来は、私が守ってあげないとね。緑ちゃんのお母さんは、洗濯に戻ります。
緑ちゃんは、学校で黄色いお友達を作ってしまいました。黄色いお友達は感染力が強く、周りのお友達をあっという間に黄色くしてしまいます。赤も青もあっという間に黄色くなります。黄色は緑ちゃんにべたべたはりついて、緑ちゃんを黄色くしようとしています。
緑ちゃんのお母さんは川からの帰り道、たまたま黄色と下校する緑ちゃんを見かけました。お母さんは、洗濯物を地面に投げ捨て、緑ちゃんのもとに走り出しました。黄色くなっちゃう。うちの緑ちゃんが黄色くなっちゃう。
お母さんはすぐに黄色を踏みつけて、緑ちゃんを救い出しました。お母さんは容赦なく黄色を踏み続け、黄色を地面に押し込んでしまいました。黄色はもう地面の一部です。二度と地面から出てくることはありません。なぜなら地面はとても強いからです。
緑ちゃんは、泣きそうな顔で緑ちゃんのお母さんに向かって、どうして黄色を地面に押し込んでしまったのか尋ねました。緑ちゃんは我慢強いのでそう簡単には泣きません。
緑ちゃんのお母さんは答えます。
「だって黄色いんだもん」
黄色は地面に押し込まれ、緑ちゃんは黄色が押し込まれたあたりに冬の七草で作った冠を置いてあげました。これで黄色もいつか緑になるはず、そう緑ちゃんは考えました。かつて黄色だった緑となら、お母さんも安心して緑ちゃんと遊ばせられます。しかし、黄色いままなら、その子は緑ちゃんのお友達にはなれません。
緑ちゃんは、黄色が緑になるのを待ちました。しかし、黄色が緑になることも、黄色が地面から戻ってくることも決してありません。なぜなら地面はとても強いから。