7、まぁくん

おばあちゃんは、
私を連れてあの自動ドアを出て、
茄子や胡瓜にお水をあげている時、
施設前の通りを歩く親子に
何度か挨拶を交わしたことがあった。
「まぁくん」とその「お母さん」親子だった。
まぁくんは、私のひとつ上だったらしい。
わたしには、ずいぶん大人にみえた。

ある日のお昼前、自動ドア越しに親子を見つけ、
ひとりでいたわたしは
あのドアをこっそり抜け出し
親子について歩いたことがあった。
彼らの家は、
施設のすぐ斜め前のアパートの一室だった。
まぁくんのお母さんは、
快くわたしを家に入れてくれた。

ただ、まぁくんの家に入ったからといって、
そんなに長居をしたわけでない。
ほんのすこし、まぁくんとお話しただけだ。
それでも、とても楽しかったのを覚えている。
同じ年頃の子と話す機会はその頃、
私には皆無だった。

すこしお話して、その時はすぐに施設に戻った。
おじいちゃんに見つかったら、
それこそ怒鳴られるのはわかっていたから。
恐る恐る、施設の地下への階段を降りる。
ドキドキしながら、楽しみを覚えたのは、
確かだった。

そして、
二度目に施設の自動ドアを抜け出したのは、
その数日後だった。
まぁくんとお話がしたかった。
季節は春先で、アパートでは
まぁくんのお家の入口は開け放しだったから
奥に、まぁくんがいるのがわかった。
「まぁくーん」
玄関から声をかけると、
「お母さん」という人が出てきて、
まぁくんを呼んでくれた。
まぁくんは、靴を履いて出てきてくれて、
アパートの裏の原っぱに誘ってくれた。
二人でそこにしゃがみこみ、
そこでしばし、お花や草をつんで遊んだ。
まぁくんは、黄色いお花が
「タンポポ」だというのを教えてくれた。
わたしはただそれだけで、笑っていた。
楽しかった。
ふと、まぁくんを見ると、
柳のような草の茎を口にくわえていた。
わたしはすぐに、真似をしたくなり
柳のような部分をぜんぶ口に入れ、
口元の茎を見せた。
すると まぁくんは、口から出して
「これだけだよ」と、
茎だけなのを見せて笑っていた。
わたしは慌てて柳の部分を口から出し、
小さな虫がついていて、口に入らなかったかと
不安になった記憶がある。

その後は、
こんなことが見つかったら、
おじいちゃんに叱られるかもしれない、と
なんとなく怖くなり、
まぁくんの家に遊びにいくのはやめてしまった。

まぁくん、どうしてるかな。




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