1、気づいた時。
わたしが、「わたし」だと気づいた時、
目の前が急に、パッと広がって
上の方のコンクリートに囲まれた細い窓の外に
ねずみ色の雲が広がっているのが見えた。
右にいるのは、おばあちゃん。
左のソファに座り、
タバコに火をつけているのが、おじいちゃん。
それは すぐにわかった。
わたしは 2歳だった。
この光景をよく、ほんとによく覚えている。
それからわたしは、何をした?
ソファのひじ掛けに置かれていた、
おじいちゃんのタバコを確かめに
ひじ掛けの脇に向かったんだった。
いつも通り、その黄みどり色の箱には
「わかば」と書かれていた。
当時わたしは、字が読めなかったが
それが「わかば」と発音するものだとは
わかっていた。
「おじいちゃん、わかば、おいしい?」
と聞くと おじいちゃんは、
「ああ、おいしいよぉ」
と、今吸ったばかりのタバコの煙を
ゆっくりと口からふわぁっと吐き出しながら
にやりと笑った。
おばあちゃんはそんな時、
たいてい黙っていた。
わたしには、
おばあちゃんは いつも少し、
困った顔をしているように見えた。
いつも、いつでも。
きっと、おじいちゃんが、
「いつも いばっているから」
だと、わたしはそう、感じていた。