気がつけば月を目指して漕いでいた
落とし物見つからぬまま春の雨
青葉ゆかし新しい靴と地図広ぐ
四月の空を二つに分かつひこうき雲
畑打にぽつんと一輪の白花よ
とりどりの色に浮かれて春を行く
私の命に勢いがあった頃、私の周りは生きているものばかりで構成されていた。 それが今はどうだろう、どちらを見回しても死んだ人の思い出ばかりじゃないか。 小説家も画家も音楽家もマンガ家も、あの人もこの人もこの世の中から去ってしまって、気づけばどれもこれも遺作となった。 彼らがいない世界に、私はまだ慣れることができずにいる。
襟足に風吹き抜ける新学期
齢二十 蒲公英喰む亀何思う
何故ゆえに飛び方を知る春の鳥
「つぶやき」が「ぼやき」に見ゆる昼炬燵
下手くそな鶯啼きおり風のどか
陽を孕み今や弾けん白木蓮
白犬やミモザの先を転げゆく
かじかんだ指の先にぞ沈丁花
吾子なでる 悪しきニュースを払う如く