日々是好日。
障子の隙間から、うららかな光が射し込む秋の昼下がり。
畳の上に長座布団を敷いて、子供を寝かせている。
庭の草木たちも、陽を浴びて気持ち良さそうだ。あたりはすっかり秋色。カエデの葉も陽の光に近いところから赤く染まり始めている。
こじんまりした庭だが、隅々まで手入れの行き届いたこの美しい庭には、きっと妖精が棲んでいると私は信じている。
部屋の障子を閉めても、ふわりと柔らかい光が部屋を明るくしてくれるので、照明もいらない。空間を分断してしまう壁と違って、向こう側の明るさを感じられる障子というものが、私は好きだ。
座布団の上に寝転がらせているのは、まだ産まれて二ヶ月の赤ちゃんだ。自分で寝返りもうてず、仰向けのままもぞもぞと手足を動かしている。自分一人ではまだ何もできない、守られるべき小さな存在。
天井に向かって口をパクパクさせたと思うと、不意に目を細めて口角を上げる。
今日もご機嫌のようだ。
1日の始まり。
朝、7時。
私と赤ちゃんの一日の始まりは、朝の授乳から始まる。今はまだ3時間おきの授乳なので、一日の終わりと始まりの間は3時間くらいしかないのだが。
寝ぼけ眼のままソファに移り、泣いている赤ちゃんを抱き起こして授乳を始める。ずっと母乳とミルク混合だが、基本は母乳多め。ただ、私が寝不足のときは旦那に代わってもらい、ミルクをあげてもらうこともある。
泣いていた赤ちゃんも、おっぱいを近づけた途端に勢いよく吸い始める。磁石みたい、不思議。
だいたい、授乳の時間は寝れないし、ぼーっとしてるのももったいないので朝でも夜中でもYouTubeやXで情報収集することにしている。政治にあまり興味はなかったが、最近はアメリカの大統領選が面白くて、解説動画を見まくっている。余談だが、国際情勢に詳しい及川幸久さんの「THE CORE」なんて、タダで観れていいのかと思うほどに興味深い。
7時の授乳が終わって、オムツを替えた後は、もう一眠り。隣にいた旦那は、朝のお勤めがあるのでその時間はもういなかったりする。
この時間が、一番ぐっすり眠ってくれるのでまた赤ちゃんを横に寝かせる。お腹いっぱいで目をパチクリさせながら私の方に手を伸ばし、少しずつ眠そうな顔になっていく瞬間が、とても愛おしい。
10時ごろ、行動開始。
2回目の授乳。同じようにソファで授乳をしたら、オムツを替えて、今度はお着替えもさせる。洋服を選ぶのも楽しみの一つだ。来客がある日であれば、お気に入りの恐竜ちゃんとかミッキーちゃんを選んで着せたりする。
自分の着替えも簡単に済ませて、授乳まくらやポット、おむつセットなどを持ったら二階の寝室から下に降りる。赤ちゃんはもちろんだが、荷物が多いので朝晩2〜3往復するからそれだけでも結構疲れる。
私の朝ごはんは遅め。なので食卓に用意してもらっているブランチを食べる。というのも、夜中の授乳でもかなりお腹が空くので、カロリーメイトや板チョコなんかを寝室に常備しているのだ。夜中にYouTubeを見ながら食べるのが、私の密かな楽しみでもある。受験を控えた学生に戻った気分だ。
10時の授乳が終わったら、ご機嫌タイム。
この時間はあまり眠くないのか、ずっと私の顔を見てニコニコしてくれる。それに最近はよく喋るようになったので、「あー」とか「あぅー」などと声を出しながらとっても楽しそうだ。こんなにも可愛らしい声は、これまでの人生で聞いたことがない。見つめてくるつぶらな瞳と、もちもちのほっぺ。そしてにっこり笑顔にやられてしまう。離れられない・・・。
そんなこんなしていると、私の午前は終わる。
お昼頃になると、旦那もちょうど朝のお勤めを終えてくるので、片付けや洗濯物の整理をしたあと、ダイニングで少しだけお昼ごはんを食べる。義父母も一緒だ。赤ちゃんは寝かせられたら寝かせるし、寝なければ一緒に台所へ連れて行き、交代で抱っこしながらご飯をいただく。13時前後には、また授乳だ。
午後は、流動的。
お昼過ぎてから、午後はどうしようか、となんとなく決める。旦那も午後のお勤めがなければ散歩や買い物にも行けるし、来客がある日も多いので、その準備をしたりもする。
また、私もお寺の広報の一部を任されているので、午後の授乳をしながらパソコンを叩くこともある。クッションや毛布をうまく使い、我ながら器用で効率的だなと思う。
とにかく、子育て以外何もしないという日はほとんどない。
気晴らしも、さまざま。
私の日常での息抜きは、主に散歩。
近場だけでも十分にリフレッシュができる。すぐ近くに緑の美しい大きな寺院があったり、ちょっとしたギャラリーとかアイス屋さんとかもあるので、町を歩くのが楽しい。カメラが好きなので、写真を撮って歩くのもいいが、集中し過ぎて帰るのが遅くなってしまうので常には持ち歩かない。
この季節は、本当に一日一日と景色が移り変わるので、毎日歩いても飽きない。
あとは、買い物もいい。
旦那に運転してもらって、スーパーやドラッグストア、しまむらやユニクロも近いのでよく行く。
主に食料品かベビーグッズばかりだが、じっと家にこもって子供と向き合っていることが多いので、数日に一回はどこかしらに出かけたい。
たまに、少し足を伸ばして自然豊かな公園や、おしゃれなカフェに連れて行ってくれる。
ありがたいことにこの近辺には、都会にも負けない素敵なカフェがたくさんあるのだ。もうカフェインや糖分は気にしなくていいので、美味しい珈琲を存分に飲んだり、好きなパンケーキを食べられるのが嬉しい。
夕方になると、一日も終わり。
少しの自由時間を終えて、夕方の授乳の時間になると、一日も終わりだ。実際には全然終わらないのだが、この後はお風呂、ご飯、寝かしつけ、そして夜から朝まで授乳が続く。
お風呂は、もちろん赤ちゃんと一緒に入る。旦那と交代々々だが、私が一緒に入ることの方が多い。洗い終わった赤ちゃんを旦那に預けたら、自分だけの時間だ。実際のところ、一人で散歩や買い物に行く機会などがない限り、私が一人でのんびりできる時間は、お風呂かトイレぐらいしかない。
お風呂とごはんを終えるころ、大体19時〜20時くらいになるので、そこで寝支度をする。寝る部屋は二階なので、また荷物を持って大移動。義父母におやすみをして、赤ちゃんの寝かしつけが始まる。実は、これが一番大変。
できれば次の授乳まで休みたいのでこちらも眠りたいところだが、そううまくはいかない。寝かしつけしてたら3時間、なんてことも多々ある。そうなってしまった時の疲労感といったらない。なので、最近は最初の30分くらいで見切りをつけ、赤ちゃんが寝なそうだったら旦那と映画を観ることにして、逆にその時間も楽しむことにしている。旦那がアヴェンジャーズのシリーズが好きで、私もハマった。それと、二人ともファンタジー系の長編が好きで、『ハリー・ポッター』とか『ロード・オブ・ザ・リング』とかを観る。映画館に行く余裕はないが、ホームシアター的な、プライベート空間でのんびり子育てをしながらの映画もとても良い。
映画を観ていると、いつの間にか膝の上で赤ちゃんは寝ている。私たちも眠かったら布団に移動して寝るし、映画が楽し過ぎたらそのままエンディングまで観て、終わった頃にまた授乳をする。0時以降の授乳のあとは、基本的にすっと寝てくれるので助かる。やはり赤ちゃんにも、朝と夜があるらしい。
夜から、朝まで。
残すところ、あとは夜中の授乳だけ。さっきも述べたが、授乳をしていると、夜中にびっくりするくらいにお腹が空くのだ。栄養というか、カロリーというか、いろんなものを吸い取られているのだろう。なので、サイドテーブルにはいつもお菓子や飲み物がたくさん置いてある。夜中に食べる板チョコなんか、背徳感も相まって最高に美味しく感じる。こんな生活をしてて肌が荒れるかとも思ったが、出産後、驚くほどに肌の調子がいい。寝不足なのに、だ。産後二ヶ月で、ホルモンバランスもだいぶ落ち着いてきたのだろう。
朝方は3時とか4時に最後の授乳を終えて、また7時から、という感じだ。やはり、1日と1日の間が途切れることはない。
今はこの生活にもだいぶ慣れたし、3ヶ月を過ぎたら夜中の授乳は少なくなっていくらしい。最初は「今だけ」と思って耐える感じだと思っていたが、少し寝不足なだけで、この生活が心から楽しい。朝でも夜中でも、おっぱいや哺乳瓶を吸いながら見つめてくる愛くるしい瞳で、こちらの眠気も覚める。オムツを替える時は、何時だろうと決まって笑いかけてくれる。何時間でも見ていたい笑顔だ。
自然と、「ありがとう。」が溢れてくる。
今日もまた、夜がやってくる。
さて、授乳の準備をするか。