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モテるまちづくり再論〜「ゆるさ」と「楽しさ」からまちづくりをはじめなおすために

某自治体から、市民の地域活動者向けに、まちづくりを進めるための実践活動の手法や考え方を学ぶまちづくり講座を依頼された。頂いたお題は4点、「そもそもまちづくりとは何か?」「何をすればまちづくりがうまくいったと言えるのか?」「新しい仲間づくりを楽しむためには?」「まちづくり活動のゆるさ、わくわく感を大事にするにはどうしたらいいか?」というものである。

この自治体では地域自治政策を推し進めているが、自治をまともにやろうとすればするほど、地域組織は悩んでしまう。言い換えれば、これまでは行政があれをしてください、これをしてくださいと依頼をして、それに答えるのが地域組織にとってのまちづくりとしてメジャーだったのが、自治、すなわち「自分たちで目的や方法を考えていいんですよ」となると、悩んでしまうのは当然だ。しかし、本来自分たちで自由に考えていい、というのは楽しいことでもあるはず。このような背景を踏まえて、地域組織にとっての自治的なまちづくりが悩みの対象ではなく、楽しめるものとなるようなレクチャーを目指した。

以下、お題ごとに記していく。


1.そもそもまちづくりとは何か

「まちづくり」=「まち(の人なら誰でも使える財産)づくり」


このお題は、個人的にはなんだか懐かしいものがある。2014年に「モテるまちづくり」という本を書いたときに、その主要な内容として説明したものであるから、もう10年も前の話になる。しかし、当然ながらまちづくり活動者全員がここで解説したような理論を知っているわけではない。何度でも解説する。大切なことは二度言う、というか、複数回言っていく必要があるのだ。「一度言ったでしょ」は知識を持つ側の怠慢だと思う。余談だが。

まず、まちづくりとは歴史的な言葉なので、その時代ごとに色んな意味が付与されていて、扱いがしづらい(コミュニティ、なんていう言葉もそうだ)。したがって、あくまでも社会的な、動き続ける生きた言葉であって、あまり確立された、動きの少ない学術的な言葉ではない、ということを前置きとして、「あくまでも現場で起きている活動をこのように解釈するといろんなことの説明がつきやすくなると思いますよ」というのが次のものだ。

「まちづくり」とは「まち(の人なら誰でも使える財産)づくり」の略だと私は解釈してはどうですか?と常々提案している。

「まち(の人なら誰でも使える財産)」といえば例えば、ハードウェアでは橋、道路、堤防、ガードレール、公園などが思い浮かぶ。また、ソフトウェアでは福祉活動、清掃活動、防犯活動、防災活動、地域の情報発信活動、地域のつながり、信頼関係、地域ブランドなどが思い浮かぶ。大抵の「まちづくり活動」とは、これら「まち(の人なら誰でも使える財産)」を作ったり、運営したり、メンテナンスしたりする活動といえば、大抵の「まちづくり活動」と呼ばれる営みはカバーできるだろう。

まちづくりには「誰でも使える財」を営むが故の難しさもある

さて、ここでいう「まち(の人なら誰でも使える財産)」というものを専門的には「公共財」という。公共財とは経済学の用語で、非排除性あるいは非競合性の両方あるいはいずれか一方の性質を備える財と説明されるが、経済学の難しい用語をわざわざ覚える必要はない。ここでは「お客さんを選んで排除できない」性質だと理解すれば十分である。例えばまちづくりでも典型的な活動である防犯活動は、一部の人だけを利する、ということができるものではない。犯罪が抑止されるとまちの人だれもが利益を得る事ができる。これが「お客さんを選んで排除できない」性質だ。

一方、この性質が、まちづくり活動のしんどさの原因ともなっている。というのも、まちの財が誰でも使える、すなわち、一部の人以外を締め出すことができないので、「正当な対価を支払わなくても受益できる」からだ。ここでいう「正当な対価を支払わず受益する人」のことを専門的には「フリーライダー」という。

構造上フリーライダーが発生するので、普通の商売であればやればやるほど儲かるし、儲かるから人や機械を増やして規模を拡大していくことができて、ますます楽になるはずのポジティブなサイクルが、まちづくり活動では起こらない。やればやるほど、求められれば求められるほどしんどくなる。人や機械を増やせるわけではないからだ。そして対価が得られないから、利益を目的とするわけではなく、やりがいや人間関係、使命感などに基づく、自主的な活動、すなわちボランティア活動に頼りがちになる。これがまちづくり活動のそもそものしんどさである。なので、まちづくり活動がしんどいのは、活動者の無能や怠慢のせいではなく、そもそもそういう性質の活動なのだ、ということをまずは知っておくとよいだろう。

ただ、フリーライダーがあまりに横行すると、だれもやりたくなくなる(専門的にはオルソン問題という)ので、それはまずいから、公共財の提供には社会が受け取る利益を間接的に分配されている。例えば政府からの補助金や、公設公民館などの設置による場所の提供、あるいは有志による寄付金などである。まちづくり活動が補助金や寄付金に依存するのも、別に怠慢ではなく、そういう構造にそもそもなっているからだ。

2.何をすればまちづくりがうまくいったと言えるのか?

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