映画「はじまりのうた Begin Again」
観た後に、すっと風が流れるような爽やかな映画。
オンライン英会話をしていたときに、講師のフィリピンの女性から教えてもらって以来、繰り返し見ている。今、アマゾンプライムにもあるので、ぜひ。(ネタバレがあるので、気になる方は、観てから読んでください。)
映画「Begin Again(なんとなく英題のほうが、優しい響きの邦題よりこの映画らしい気がする。)」の舞台はニューヨーク。キーラ・ナイトレイ演じるシンガーソングライターのグレタが、恋人デイブとともに、この街にやってくる。デイブは今をときめくシンガー。デイブを演じるのは、ロックバンドMaroon5のアダム・レーヴィン。二人は、新居で幸せな二人暮らしを始めるが、デイブが出張中に浮気をしたことで、グレタは新居を飛び出す。家を飛び出したグレタを、友人スティーブはライブハウスへと連れ出し、彼女をステージへと引き上げる。ライブハウスのステージで、歌う彼女を、見出したのがダンという音楽プロデューサー。彼も、妻とは別居し、自分で立ち上げたレーベルを追い出され、絶望の淵にいた。グレタとダンは意気投合し、二人はニューヨークの街中でアルバムをレコーディングしていく。
キーラ・ナイトレイの出演している映画はいくつか見ているけれど、ちょっと強気で、でも繊細さもあるこの映画の役は特に似合っていると思う。そして、ボーイッシュな服装が、キーラの美しさを引き立てる。彼女を、やせすぎ、という人もいるけれど、細身なのに上品な艶があって、素敵だなと私は思う。私自身が肉付きの悪い体型をしているので、豊満な体つきに女性らしさを求める考え方が苦手だ。ということもあって、この映画の彼女のファッションに憧れる。すっきりとしたデザインのワンピースとか、ジーンズとブレーザーとか。媚びるわけではなく、でも、はっとするような美しさがあって。グレタが、ダンの娘ヴァイオレットに、服装をvery very sexyなものから、もっとimaginationが必要なものにしなさい、と助言する場面も好き。ヴァイオレットも一見チャラチャラしているのかなと思いきや、好きな男の子に振り向いてもらおうと、素直に助言を聞き入れるのもかわいい。
この映画は、音楽の効用を思い出させてくれる。グレタとダンは、地下鉄のホームや、路地裏、屋上など、開放された場所でレコーディングすることで、街角の喧騒も、楽曲の一部にしてしまう。パトカーのサイレン、車が走る音、街行く人の声…何気ない日常に溢れた音を、レコーディングをして曲の中に閉じ込める。
日常を音楽に。
そして、グレタとダンが、二人で夜のニューヨークを、お気に入りのプレイリストをお互いに紹介し、一緒に聞きながら歩く場面。音楽を聴きながら歩くと、街がいつもとは違った景色に見える、音楽が陳腐な日常を「真珠」に変える。
日常に音楽を。
キーラの飾り気のない透き通るような歌声も、何度も聞きたくなる。そして、アダム・レーヴィン(デイブ)が最後に歌うバラードが、圧巻。このシーンまで、デイブを最低な男だなと思ってみているんだけど、その声が甘やかで、切なくて、必死で、うーん、許してしまいたくなるような。でも、グレタは会場をあとにして、颯爽と自転車で夜の道を駆け抜ける。一つの恋の終わり。でも、「Begin Again」。
この映画の舞台となったニューヨークも、今は本当に絶望の淵にあるとおもう。ニューヨークには、大学生の頃、無料で行ける機会があって、一度行ったことがある。東京は、ニューヨークを真似したんだなということがよくわかった。でも、もっと開放的で、洗練されていて、映画の世界そのままだった。パトカーやクラクションが騒々しいのも映画のまま。
そのときは、自由に歩ける旅行じゃなかったから、メトロポリタン美術館を1時間半くらいで回らなければいけなかった。またいつか行きたいなとずっと思っている。今は、メトロポリタン美術館のホームページ(作品の解説や展覧会カタログを無料で公開してくれている)を家で見ることしかできないけれど――またいつかニューヨークの街を歩くことを夢見ながら。