ノンマリ連載短編小説 - 「Letters. 君と詠む歌」 第十首 (全12回)
前回までのあらすじ:玉緒はいつも一人だった。飲み会の時も、今も。まるで酒を胃に流し込むのが、紫煙を吐き出すのが仕事なのではと思うほどに一人だった。そんな玉緒へ好意を寄せる天津に「独りを楽しんでるから綺麗なのだ」と告げる。
第十首
もう帰る時間だね、と君は呟く
だから線香花火は嫌い
「一人って寂しくないですか」
「ずっと独りだから」
強いんですね、と言いながら彼は花火の火を私に分けた。べランダは思いのほか風が吹き荒れていて、少し秋の気配がする。
「別に、君は私のこと大好きなわけじゃないでしょ」
「まぁ、はい」
「寂しい人を探して一緒になればいいよ、そしたら独りじゃなくなるから」
「じゃあ、なんで俺といま一緒にいるんです?」
「信じてみたかったから」
花火界で、線香花火がいちばん好きだ。いいにおいがするし、片付けやすいし、なにより後腐れがない。
「あと、まぁ夏だし」
「俺、ちょっと玉緒さんのこと」
「…ありがと」
そこまで倹約するのか、というほど彼は私の吸いかけの煙草を、消えてなくなるまでチビチビと口にあてていた。溢れんばかりの若さを吐き出すその唇に、吸いついたらどうなるだろう。
「帰る時間だね」
線香花火の魂が最後に大きく揺れ、そのまま二つそろって地面に落ちた。
—第十一首につづく
Letters.君と詠む歌 / 玉舘(たまだて)
前世占いで「ふたりの前世は平安時代の歌人」と告げられた玉緒と後輩の天津。ひとりで生きることに慣れきっていた玉緒は、親しげに距離を詰めようとする天津の若さを暑苦しく感じながらも、彼と二人で"ひと夏の思い出"をつくろうと考える。正反対な二人がおもしろ半分で詠んだ12首の短歌と、その歌が生まれた12の瞬間の物語。
「nonmari(ノンマリ)」
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