ノンマリ連載短編小説 - 「Letters. 君と詠む歌」 第十二首 (全12回)最終話
前回までのあらすじ:占いコーナーで「ふたりの前世は平安時代の歌人」と告げられた玉緒は、後輩の天津とひと夏の思い出をつくろうと一緒に短歌を始めることにした。二人で過ごす最後の夜、天津は玉緒との日々を綴った短歌をプレゼントする。
第十二首
間違いじゃなかったけれど
正しくもなかった今日に 幕を下ろして
「またこうやって玉緒さんと会いたいです」
「逢いましょう、来世あたりで」
壮大でちっぽけな約束をして、手を振って別れる。
彼の視線を背中に感じたけれど、振り返る気はない。
部屋に戻ったあと、「プレゼントしたいから」と半ば強引に手渡されたメモ帳を読み返した。たしかに彼の言葉はまた、もっと読みたいかも、と思う。
そこには、私との日々が綴られていた。まるで短い日記のように。まるで優しい手紙のように。
本当はまだ、私はひとつも短歌を詠んでいなかった。彼が6首くれたのだから、彼の書き洩らした日々を縫うように、私も6首詠んでみよう。そうしたら彼との「一緒」は一度終わり、また新たな「ひとり」がはじまる。
窓を開けると、さっきの線香花火の残り香が部屋に流れてきた。なぜか少しだけ寂しくて、でもなんだか忘れたくなくて、私はゆっくりとカーテンを閉めた。
—完
Letters.君と詠む歌 / 玉舘(たまだて)
前世占いで「ふたりの前世は平安時代の歌人」と告げられた玉緒と後輩の天津。ひとりで生きることに慣れきっていた玉緒は、親しげに距離を詰めようとする天津の若さを暑苦しく感じながらも、彼と二人で"ひと夏の思い出"をつくろうと考える。正反対な二人がおもしろ半分で詠んだ12首の短歌と、その歌が生まれた12の瞬間の物語。
「nonmari(ノンマリ)」
おひとりさまのおひとり時間に寄り添うWEBマガジン「nonmari(ノンマリ)」。ひとりで過ごす夜をテーマに、短編小説やエッセイなど更新しています。 お仕事を終えてほっと一息ついた時、寝る直前のベッドの中で。おひとり時間を過ごすあなたが、心おだやかな夜をすごせますように。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?