ノンマリ連載短編小説 - 「Letters. 君と詠む歌」 第六首 (全12回)
前回までのあらすじ:仕事の後、一緒に帰ることになった二人。天津はコミュニケーションが上手で、彼の言葉はどれも仄かに恋の匂いがする。一方で「なにか食べて帰ります?」と聞かれても「私は大丈夫です」と答えてしまう自分は可愛げがないと思う玉緒だった。
第六首
夏なのに 折るアイスすら食べてねえし
俺たちたぶん 彩度が低い
「天津くんって平安時代の短歌、知ってます?」
「あー、なんかサラダのやつとかなら知ってます」
「サラダ…は多分、平安時代ではない気がしますけど」
「さすが文学部生」
まぁ、とか、えぇ、とか暑さで溶けきった適当な返事をして、さっさと帰りたそうにしている玉緒さんの腕をひく。
「なんですか?」
「玉緒さん、アイス好きですよね?」
「…ええ、スーパーのアイスですか」
「あ、ついでに花火買って一緒にしましょうよ」
じーっと俺を見つめる彼女の瞳は黒々としていて、ジジジジジジジ、とさっきからスーパーの店先でうるさいセミの声は、この目の奥から鳴り響いているような気がする。
「女との夏の思い出をこの際コンプリートしちゃおっかな、とか考えてますか」
「そんな、短歌のネタ集めですよ」
—第七首につづく
Letters.君と詠む歌 / 玉舘(たまだて)
前世占いで「ふたりの前世は平安時代の歌人」と告げられた玉緒と後輩の天津。ひとりで生きることに慣れきっていた玉緒は、親しげに距離を詰めようとする天津の若さを暑苦しく感じながらも、彼と二人で"ひと夏の思い出"をつくろうと考える。正反対な二人がおもしろ半分で詠んだ12首の短歌と、その歌が生まれた12の瞬間の物語。
「nonmari(ノンマリ)」
おひとりさまのおひとり時間に寄り添うWEBマガジン「nonmari(ノンマリ)」。ひとりで過ごす夜をテーマに、短編小説やエッセイなど更新しています。 お仕事を終えてほっと一息ついた時、寝る直前のベッドの中で。おひとり時間を過ごすあなたが、心おだやかな夜をすごせますように。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?