ノンマリ連載短編小説 - 「Letters. 君と詠む歌」 第十一首 (全12回)
前回までのあらすじ:ベランダで夏の名残の花火を楽しむ二人。「一人は寂しくないか」と聞く天津に「ずっと独りだから」と答える玉緒。帰る時間だね、とつぶやくと線香花火の魂が最後に大きく揺れ、そのまま二つそろって地面に落ちた。
第十一首
言うべきかわからないけど
おにぎりの海苔はしなしな派だよ、ばいばい
帰り道、バッグのポケットから薄いメモ帳を取り出して、隣をぼんやりと歩く彼女に渡した。
「何?」
「俺が作った短歌です」
へぇ、と心底どうでもよさそうに相槌を打つのは、決して人の話を聞いていないわけではなかった。彼女がちゃんと人の話に耳を傾け、ゆっくりと咀嚼している証拠。
「君、前世は本当に歌人だったんじゃない?」
さっと読み終えたあと、そう言いながらこちらを見上げた。街頭の灯りを集めて、彼女の目が光っている。
「俺、天才かもしれません。6個も詠んじゃいました」
「天津くんの言葉、私好きだよ」
「…玉緒さんも見せて下さい」
「わかった、後で送る」
この気持ちはたぶん恋だから、いつか書き換えなければいけない日がくるかもしれない。でも、それまでは忘れないでいたい、と思う。
「俺、玉緒さんのこと全然知らない」
「私、アイスはそこまで好きじゃない」
「えぇ、マジか」
「ラーメンは塩、おにぎりの海苔はしなしな、プリンは固いのが好き」
「…俺はとろとろのやつが好きです」
—第十二首につづく
Letters.君と詠む歌 / 玉舘(たまだて)
前世占いで「ふたりの前世は平安時代の歌人」と告げられた玉緒と後輩の天津。ひとりで生きることに慣れきっていた玉緒は、親しげに距離を詰めようとする天津の若さを暑苦しく感じながらも、彼と二人で"ひと夏の思い出"をつくろうと考える。正反対な二人がおもしろ半分で詠んだ12首の短歌と、その歌が生まれた12の瞬間の物語。
「nonmari(ノンマリ)」
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