ノンマリ連載短編小説 「龍のコインが来て、そして」 #10 カウベルのある玄関
10.
『カウベルのある玄関』
リアルフリマで、カウベルを買ってきて玄関のドアにつけてみた。楽器じゃなくて、スイスっぽい感じの、カラフルな飾りがついたやつ。ドアを開け閉めすると、カランカランといういう感じで音が鳴る。自分への、「いってらっしゃい」、と「お帰り」のつもり。音は一緒のはずなのだけれど。
夕方、ベットに寝転んで本を読んでいたら、カランと音が鳴る。おかしいな、風、通らないはずなのに、とそのときは思った。
寝てからのこと。夢の中になんだかへんてこなのが出て来たから、悪霊退散!と言って追い払おうとした。で、目が覚めた。時計をみると、夜中の二時だった。
また、からん、と音がする。ああそうか、夕方に入ってきていたのが、今、出ていったんだ。おばけだとしたら、臆病なおばけだったんだな、とちょっとかわいそうになったりもした。
で、カウベルなんだけど、はずして、フリマで買った人に返した。まあ、知らぬが仏ってことも、あるよね。
—第11話につづく
龍のコインが来て、そして / 中臣モカマタリ
龍の模様が刻まれたコインを手に入れた「私」に起こる、ささいだけれど不思議なできごとをオムニバス形式でつづる連作。
「nonmari(ノンマリ)」
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