ノンマリ連載短編小説 「龍のコインが来て、そして」 #3 ニンジンの教え
3.
『ニンジンの教え』
龍のコインがうちに来てから、なんとなく日々に変化が起きているような気がする。
通勤の途中で「馬男」をみかけた。といっても、鼻筋が通って馬みたいな印象を受ける人。彼が熱心に読んでいた文庫本には、ニンジンの模様があしらわれたブックカバーがかけられていた。あ、馬がニンジンを追いかけているみたい、と思った。
オフィスで思ってしまった。なんでこんな給料で、こんなに働かないといけないんだろう、って。あ、いかん、いかん。愚痴と悪口はお肌に悪いんだった。と、そのとき思いついた。給料じゃなくて、私の決めたご褒美のために働いていることにしよう。馬にとってのニンジンみたいに。ニンジンには何がいいだろう、と考えて、結局これに落ち着いた。
宣言する。今日から私の労働の対価は、チョコレートで支払われる。それをもって報われることとする。
というわけで、夜のくつろぎタイムに買ってきたチョコレート。
—第4話につづく
龍のコインが来て、そして / 中臣モカマタリ
龍の模様が刻まれたコインを手に入れた「私」に起こる、ささいだけれど不思議なできごとをオムニバス形式でつづる連作。
「nonmari(ノンマリ)」
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