ノンマリ連載短編小説 - 「Letters. 君と詠む歌」 第四首 (全12回)
前回までのあらすじ:玉緒をデートに誘うが「私、天津くんと付き合う気ありません」と冷ややかに牽制される天津。デートは恋人じゃなくてもできるし、短歌を一緒につくりたいからとあれこれ理由をつけて、まずは仕事終わりに一緒に帰ってみることを提案する。
第四首
初恋の味は忘れた ノーカンで
あなたの味を 教えて、今
「前世はふたりとも平安時代の歌人?」
「そう」
「試しにふたりで短歌作ってみましょうって?」
「そう」
「で?前世の愛し合った記憶がよみがえったりするの?」
「そうなの?」
どこのB級映画だよ、と隣のデスクの和泉が笑う。彼女はいつも引き出しに飴を忍ばせていて、夏の暑さでベタベタに溶けた砂糖の塊を時々くれる。
「で、好きなの?天津のこと」
「ふつう、でも今日は一緒に帰る」
「なんだ、玉緒は相変わらずしっかりしてるね」
いつも和泉は私のことを「しっかりしている」と言うので、きっとそれは良いことなのだと思う。なにより、彼女はなんでもない日でも私に甘い飴をくれる。
「楽しそうじゃん、まぁ来年の今頃には玉緒は忘れてそうだけど」
「どうだろう、あ、美味しい」
「え?」
いつもは砂糖の味しかしないのに、今日のはリンゴのそれだと分かった。さっき、煙草があまり吸えなかったからかもしれない。
「恋じゃないから、忘れる必要ないもの」
—第五首につづく
Letters.君と詠む歌 / 玉舘(たまだて)
前世占いで「ふたりの前世は平安時代の歌人」と告げられた玉緒と後輩の天津。ひとりで生きることに慣れきっていた玉緒は、親しげに距離を詰めようとする天津の若さを暑苦しく感じながらも、彼と二人で"ひと夏の思い出"をつくろうと考える。正反対な二人がおもしろ半分で詠んだ12首の短歌と、その歌が生まれた12の瞬間の物語。
「nonmari(ノンマリ)」
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